Armv9世代初のプロダクトIP群は「IPごとよりもシステムレベルで性能を語れ」:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
Armの日本法人アームが、最新アーキテクチャ「Armv9」をベースとする次世代コンシューマー機器向けプロダクトIP群を発表。CPUやGPU、システムIPを組み合わせたシステムレベルでより高い性能とエネルギー効率を発揮できる「Arm Total Compute」ソリューションとして提案を進めていく方針を明らかにした。
GPUは全て「Valhall」アーキテクチャベースに
GPUは、今回発表した全てのIPが「Valhall(ヴァルハール)」アーキテクチャベースとなった。フラグシップのMali-G710は、従来モデルの「Mali-G78」と比べて、処理性能が20%、エネルギー効率が20%、ML性能が35%向上。ミッドレンジのMali-510は、従来モデルの「Mali-G57」と比べて、処理性能が2倍、エネルギー効率が22%向上、ML性能が2倍となっている。Mali-G310は数年ぶりにリリースされるローエンドのGPUのIPだが、アーキテクチャの刷新を含めて、処理性能が6倍、エネルギー効率が4.5倍、ML性能が2倍など大幅な性能向上と遂げた。なお、Mali-G710については、コア数を減らしたローコンフィギュレーション版となる「Mali-G610」もリリースしている。
システムIPは、エンタープライズグレードの性能を持つArm CoreLink CI-700と、ミッドレンジ以下向けとなるArm CoreLink NI-700の2種類を用意した。Arm CoreLink NI-700については、Armv9アーキテクチャの特徴の一つとして紹介された「Memory Tagging Extensions(MTE)」を導入している。
4つのプラットフォームを想定して展開
Arm Total Computeでは、これらのプロダクトIP群を用途別に特化して展開すべく4種類のプラットフォームを想定している。1つ目はノートPC向けで、Coretx-X2を複数搭載してピーク性能を追求することになる。2つ目のハイエンドスマートフォンでは、シングルスレッド性能を求められるためCoretx-X2を搭載しつつ、big.LITTLE構成のCoretx-A710とCortex-A510や、フラグシップGPUのMail-G710を用いる。3つ目はコスト要求が厳しいミッドレンジスマートフォンやデジタルTVなど向けで、Coretx-X2は使わずに、Coretx-A710とCortex-A510、ミッドレンジGPUのMail-G510を用いる。4つ目はスマートフォンのエントリーモデルやスマートウォッチなどのウェアラブル端末向けで、LITTLEコアのCortex-A510とローエンドGPUのMali-G310の組み合わせとなる。
また、Arm Total Computeというアプローチで得られる新たなメリットについても紹介した。あるゲームアプリケーションの処理について、Armv8.2アーキテクチャのシステムではGPUで行っていた処理を、Armv9アーキテクチャのシステムでCPUに移したところ、処理負荷が減ったGPUの処理性能が20%向上するだけでなく、移された処理をCPUがより効率良く実行できたことからCPUの性能も33%向上した。加えて、データコンプレッションなども活用することでエネルギー効率も15%できたという。「アプリケーションごとに最大性能を引き出せるようになることがArm Total Computeの大きな特徴だ」(菅波氏)としている。
なお、Armv9アーキテクチャで導入される新技術としては、拡張機能の「SVE2」と、よりセキュアなコンピューティングを実現する「Arm Confidential Compute Architecture(CCA)」や「レルム」コンセプトなどがある。今回のプロダクトIP群では、CPUでSVE2が採用されているものの、CCAやレルムは採用されていない。菅波氏は「Armv9アーキテクチャは今後の10年間に向けたものであり、CCAやレルムは追って採用されることになるだろう」と述べている。
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