フォノンの応用で遠赤外線センサーを進化、パナソニックのフォノニック結晶構造:研究開発の最前線(2/2 ページ)
パナソニックは、フォトン(photon、光子)ではなく、フォノン(phonon、音子)の応用となる「フォノニック結晶構造」をシリコンウエハー上で量産するための作成方法を開発した。このフォノニック結晶構造は、遠赤外線センサーの感度を約10倍向上できるという画期的な技術である。
新時代の熱制御技術がブレークスルーを可能にする
パナソニックは、この自己組織化ナノプロセス技術で作製できるフォノニック結晶構造を、遠赤外線センサーの高感度化に役立てたい考えだ。
遠赤外線センサーのセンサー信号強度は、遠赤外光を受ける受光部の熱伝導率に反比例することが知られている。これは、遠赤外光の熱を受光部から外部に伝えにくいほど、センサーの感度を高くできることを意味する。とはいえ、受光部から電気信号を取得するには回路基板と電気的に接続しなければならないの。そこで、この受光部と回路基板をつなぐセンサー支持脚からできるだけ熱を逃げにくくするために、脚を長く、高い構造にしたり、材料として空気層を含む多孔体を採用したりなどしてきた。
しかし、もう一段階上の性能向上を求めるためには、これらの取り組みでは限界があった。これに対してフォノニック結晶構造は「新時代の熱制御技術であり、ブレークスルーを可能にする」(藤金氏)という。実際に、遠赤外線センサーの支持脚にフォノニック結晶構造を適用したところ、従来の穴のないSiや多孔体の支持脚を大きく上回る断熱効果を確認できた。実際のセンサー感度としても、フォノニック結晶構造を搭載しないものと比べて10倍の高感度化を確認している。
実用化はパートナーとの共創も視野に
パナソニックがフォノニック結晶構造の研究開発に取り組み始めたのは2015年ごろからになる。当初は、熱電変換材料の研究開発を進める上で「電気を流すが熱は伝えない」という、一般的な伝導体では実現が難しい新材料の探索を目的としていた。フォノニック結晶構造の研究開発を進める中で、熱電変換材料以外の用途探索も進められ、有力な候補として挙がってきたのが今回発表した遠赤外線センサーへの適用になる。
現在販売されている遠赤外線センサーの多くはMEMS構造を採用した素子がほとんどだ。フォノニック結晶構造を受光部の支持脚に組み込むことで10倍の高感度化が可能になるということは、受光部を10分の1に小さくしてしても従来と同じ性能が得られるので10倍の高画素化も可能になる。
藤金氏は、フォノニック結晶構造の実用化時期について「2025年以降には何らかの形で顧客に届けたい」と述べる。パナソニック自身も、8×8の64画素で2次元エリアの温度検知を可能にする赤外線アレイセンサー「Grid-EYE」を展開するなどしているが「自社単独にこだわらず、パートナーとの共創も視野に入れて実用化の取り組みを進めたい」(同氏)としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「パナソニックの持つ多様性を価値に転換する」、新CTOの小川氏が会見
パナソニックの技術トップとして新たに執行役員 CTO、薬事担当に就任した小川立夫氏がオンライン会見を行った。今回の会見は、小川氏のパナソニックにおける経歴や技術開発についての考え方などを説明すもので、具体的な研究開発の方向性などについて踏み込むことはなかったが、その基盤となる考え方を示唆する内容となっていた。 - ニューノーマルを「くらしアップデート」の追い風に、パナソニックの技術戦略
パナソニックは、技術セミナーとして研究開発戦略について、パナソニック 専務執行役員でCTOとCMOを務める宮部義幸氏がオンラインで説明を行った。「くらしアップデート業」を掲げる中で、これらに最適な技術基盤の構築を進める一方で、技術の活用先として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応を進めていく方針を示した。 - 全固体電池はマテリアルズインフォマティクスで、変わるパナソニックの材料研究
マテリアルズインフォマティクスによって二次電池や太陽電池の材料開発で成果を上げつつあるのがパナソニック。同社 テクノロジーイノベーション本部の本部長を務める相澤将徒氏と、マテリアルズインフォマティクス関連の施策を担当する同本部 パイオニアリングリサーチセンター 所長の水野洋氏に話を聞いた。 - パナソニックの携帯電話技術は息絶えず、sXGPとローカル5Gで生きる
パナソニックの携帯電話関連事業は既に“過去のもの”というイメージが強い。しかし、基地局関連技術については、2014年9月の事業売却以降も、テクノロジー本部で研究開発が続けられてきた。同本部の開発担当者に、カナダの通信機器向けICベンダーであるオクタジックとの共同開発を含めた、基地局関連技術の今後の展開について聞いた。 - AIや機械学習を駆使して、パナソニックが新材料開発をデジタル化
パナソニックは、創業100年を記念したプライベートイベント「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」(2018年10月30日〜11月3日、東京国際フォーラム)を開催している。会場では同社のマテリアルズインフォマティクスに関する取り組みについて発表した。 - グラフェンを使った世界最高感度の赤外線センサー、三菱電機が開発
三菱電機は、東京都内で研究開発成果披露会を開き、世界最高感度のグラフェン赤外線センサーを披露した。高感度の赤外線センサーとして用いられている量子型センサーと比べて10倍以上の最高感度を達成したという。