「SAP S/4」のシェアリングで中小製造業の生産性25%増へ、会津地域で導入開始:製造ITニュース
会津産業ネットワークフォーラム(ANF)とアクセンチュア、SAPジャパンは、ANFの会員企業がERPの「SAP S/4」などを共同利用できる共通業務システムプラットフォーム「コネクテッド マニファクチャリング エンタープライゼス(CMEs)」を構築したと発表。先行ユーザーであるANF会員企業のマツモトプレシジョンでの運用を開始した。
福島県会津地域の中小製造業が参加する会津産業ネットワークフォーラム(ANF)とアクセンチュア、SAPジャパンの3者は2021年4月9日、オンラインで会見を開き、ANFの会員企業がERPの「SAP S/4」などを共同利用できる共通業務システムプラットフォーム「コネクテッド マニファクチャリング エンタープライゼス(CMEs)」を構築し、先行ユーザーとなるANF会員企業のマツモトプレシジョンでの運用を開始したと発表した。CMEsは2020年度の1年間を掛けて構築を進めたもので、導入により約25%の生産性向上を見込む。
CMEsは、会津若松市を実証フィールドとするスマートシティープロジェクトの一環として、モノづくり領域における取り組みとして進められてきた。アクセンチュア イノベーションセンター福島 センター共同統括 マネジング・ディレクターの中村彰二朗氏は「近年、海外と比べた日本の生産性の低さが課題となっているが、その一因となっているのが中小企業の生産性の低迷だ。そして、これら中小企業が個社でデジタル化を進めようとしても、イニシャル、運用、体制の全てに無理が出て満足のいく結果は得られない。そこで会津地域では、まずは地場の中小製造業がシェアリングできるような共通業務システムプラットフォームを先行投資で構築する方向性を打ち出した」と語る。
SAPジャパン 会長の内田士郎氏も「国内企業数の99.7%を占める中小企業の生産性向上は大きな社会課題だ。共通業務システムプラットフォームにより、高品質で低コストのERPを活用することで中小企業の生産性向上を支援したい。また、ドイツ企業であるSAPが注力しているインダストリー4.0を、大企業だけでなく中小企業にも展開したい」と述べる。
今回構築したCMEsは、ERPであるSAP S/4を中核に、BOM(部品表)管理システムやMES(製造実行システム)、受注管理を行うサプライヤーポータルなどの機能を追加したものだ。おおむねSAP S/4の標準機能を利用しており、中小製造業向けの機能最適化はアクセンチュアの保有する業界標準テンプレートなどを活用している。
CMEsでは、日本版インダストリー4.0である「コネクテッドインダストリーズ」の実現に向けたロードマップを4段階に分けている。現在は、非競争領域におけるICT基盤の共有化に当たる第1段階の「DIGITAL FOUNDATION」で、今後は第2段階の「DIGITAL MANUFACTURING」、第3段階の「DIGITAL FACTORY」、第4段階の「DIGITAL ENTERPRISE」などに進み、工場同士の接続や、企業間連携の促進なども視野に入っている。
CMEsを導入するマツモトプレシジョン 社長の松本敏忠氏は「当初は、デジタル化に向けたITシステムを自前で構築することを考えていた。しかし、会津地域の産学官の人々が集うAOI(会津オープンイノベーション)会議などの場でいろいろと学ぶ中で、自分の考えていたことが部分最適にすぎず、全体最適を目指す必要があると思った。しかし、個社でそれを実現するITシステムを導入しようとすれば数千万円〜1億円はかかる。今回のCMEsは、そういったITシステムを共通業務システムプラットフォームとして共同利用できるとともに、サブスクリプションで導入するという選択肢があることも大きかった」と説明する。
今後のCMEsの展開については、まずマツモトプレシジョンで導入成果を見極めつつ、ANF会員企業のうちCMEsの導入についてヒアリングを行った十数社への提案を進めていく。また、ユーザー企業の導入初期には経済産業省のIT導入補助金を活用できるが「1〜2年目は補助金を活用しつつ、3年目からは補助金なしで自立できるような形が望ましい。実際にそれが可能な立て付けになっている」(中村氏)としている。
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