LiDARから中核のECUまで、トヨタのハンズオフを支えるデンソー製品:自動運転技術(2/2 ページ)
デンソーは2021年4月9日、トヨタ自動車の高度運転支援技術の新機能「Advanced Drive」で採用された製品を発表した。Advanced Driveはレクサスブランドのフラグシップセダン「LS」と燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」に搭載される。ドライバーは周辺を常時監視する必要があり、分類上はレベル2の自動運転に該当する。
認知、判断、操作に関わる複数のECUを開発
SIS ECUは車線レベルで現在地を特定して車両の姿勢を把握するとともに、車両制御を担うADS ECUに前方の走路情報を渡す役割だ。GNSSと6軸ジャイロセンサー、車速を基に車両の姿勢や走行軌跡を推定。フロントカメラやLiDARなどから得られる情報も自車位置の特定に使用する。前方の走路情報は、高精度地図やリアルタイムな交通状況、ナビゲーションシステムのルート情報などを基にしている。高精度地図がOTAで更新されることを踏まえ、セキュリティ技術も搭載したという。
ADS ECUは自動運転の基本ロジックが搭載されたECUだ。車両の周辺を監視するカメラやLiDARなどのセンサーの情報を数ms単位で高速処理する。カメラの映像を扱うデータ通信にはギガビットイーサネットを採用した。電源の二重化、複数のSoC(System on Chip)とMCUを組み合わせる事による安全性の確保などにより、自動車の機能安全規格ISO 26262で最も厳しい安全要求レベルASIL(Automotive Safety Integrity Level) Dを満たした。トヨタの設計により、ECUの冷却にはエアコンの風を利用している。
Advanced Driveでは、AI(人工知能)を活用して周囲の交通状況などから運転中に遭遇し得るさまざまなシチュエーションを予測している。また、カメラから得られた画像を処理する際に、従来よりも認識精度を向上する上でもAIが貢献しているという。こうしたAIを使った機能はADX ECUがになっている。ADS ECUはルネサス エレクトロニクスの、ADX ECUはNVIDIAの製品が採用されており、従来の制御用マイコンの50〜100倍の演算能力を持つとしている。どちらのECUもOTA対応だ。消費電力の大きさや高速通信の採用に伴い、シミュレーションによるEMC(電磁両立性)設計を行った。最先端の半導体部品は、寿命故障解析などによって車載レベルの信頼性を確保した。
トヨタとデンソーが一体となって開発
Advanced Driveの開発は仕様検討の段階からトヨタとデンソーが一体となって取り組んだ。ハードウェアはデンソーが設計、開発、生産に責任を持ち、車両の性能についてはトヨタとウーブン・コア(旧TRI-AD)が担当。ソフトウェアでは、既存の運転支援システム「Toyota Safety Sense」と同様に自動運転のコンセプトを決める段階からデンソーとトヨタで協力している。トヨタとデンソーの共同出資で設立した車載半導体の研究開発会社「MIRISE Technologies(ミライズテクノロジーズ)」の知見も取り入れられている。
今後はデンソーの半導体IP設計会社「NSITEXE(エヌエスアイテクス)」が手掛ける「データフロープロセッサ(DFP)」についても活用を検討したいとしている。
自動運転技術の開発について、武内氏は「車両に搭載するセンサーの数が増えるということは、データ量も増える。今後、Advanced Driveを進化させていく上では走行シーンも多様化する。大量のデータを効率的に使って、より多くのシーンを検証しなければならない。先進的な開発環境の利用や、関係者が同じ環境で開発できるような環境の整備が必要だ」と述べた。
また、Advanced Driveでは車外の画像データなど走行データを記録し、販売後の車両からトヨタのサーバに送信することにより、今後の自動運転開発や安全技術、地図データの研究開発に生かせる情報も得られる。これまで、販売済みの車両から手に入る走行データは決して多くなかった。サプライヤーのデンソーとして入手できるデータはさらに限られていた。自動運転システムは走行中に得られるデータ量が大きくなることから、貴重な材料となりそうだ。
関連記事
- トヨタが重視したのは「レベル3到達」よりも「安心できるハンズオフ」
トヨタ自動車は2021年4月8日、オンラインで説明会を開き、レクサスブランドのフラグシップセダン「LS」と燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」に搭載する高度運転支援技術の新機能「Advanced Drive」を発表した。 - ホンダのレベル3の自動運転は限定100台、「しっかり使ってもらってフィードバックを得る」
ホンダは2021年3月4日、フラグシップセダン「レジェンド」にレベル3の自動運転を含む高度な運転支援システム「Honda SENSING Elite(ホンダセンシングエリート)」を搭載して3月5日からリース販売すると発表した。100台の限定生産で、当面は増産や販売拡大の計画はない。税込みメーカー希望小売価格は1100万円(既存モデルは724万9000円)。 - 新型Sクラスがレベル3の自動運転に対応、2021年後半からドイツで利用可能に
メルセデスベンツ(Mercedes-Benz)は2020年9月2日、フラグシップセダン「Sクラス」の新モデルを世界初公開した。同年9月からドイツで受注を開始し、12月から販売する。モデルチェンジに合わせて新型Sクラスの生産拠点「Factory 56」を刷新した。 - 高精度地図に「年間1万6000円」、日産プロパイロット2.0の市販は2019年9月
日産自動車は2019年7月16日、横浜市の本社で記者会見を開き、「スカイライン」の新モデルを発表した。2019年9月に発売する。車両のエンブレムは、これまでのインフィニティブランドのバッチから日産ブランドに戻した。 - トヨタデンソーアイシンの車載ソフト会社が新体制に、目指すは「自動車のWindows」
トヨタ自動車グループの自動運転開発体制で先行開発を担ってきたTRI-AD(Toyota Research Institute Advanced Development)は、2021年1月から新体制で動き出した。これまでは車載ソフトウェアの開発会社だったが、スマートシティのように自動車やモビリティを超えた取り組みに挑むため役割分担を明確にする。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.