人工光合成ではない「P2C」でCO2からCOを生成、東芝が工業化にめど:研究開発の最前線(2/2 ページ)
東芝がCO2(二酸化炭素)を燃料や化学品の原料となるCO(一酸化炭素)に電気化学変換する「Power to Chemicals(P2C)」を大規模に行う技術を開発。一般的な清掃工場が排出する年間約7万トンのCO2をCOに変換でき、CO2排出量が清掃工場の数十倍になる石炭火力発電所にも適用可能だという。
電解セルの大面積化とスタック化の課題はどのように解決したのか
ただし、大面積化とスタック化を実現する上ではCO2還元反応の効率が低下するという課題を解決する必要があった。例えば、面積16cm2の電解セルのファラデー効率が93%であるのに対して、面積100cm2の電解セルを4層重ねた4セルスタックでは81%に低下してしまう。これは、電解反応時の損失が熱として電解セル内に発生し、目的の反応であるCOの生成ではなく副反応である水素の生成比率が増加してしまうためだ。
この課題解決のために開発したのが、セル間に冷却流路を設けた独自のCO2セルスタック構造だ。大面積化とスタック化で発生する熱を、セル間の冷却流路を使って逃がすことにより効率的な冷却を実現した。先述した面積100cm2の4セルスタックにおいて、冷却流路がない場合にセルスタック中央端部の温度は50℃に上昇するが、セル間に冷却流路を設けることで25℃に下げることができた。ファラデー効率も81%から94%に向上できたという。
北川氏は「発熱量に応じた冷却流路の設計により、さらなる大面積化、スタック化も可能になる」と説明する。大面積化については400cm2、スタック化は200層、そして電流密度は2019年3月の発表と同じ700mA/cm2まで可能と想定している。これら全てを最大値で適用すれば、1m2当たり年間約2500トンのCO2処理能力が求められる石炭火力発電所への対応も視野に入る。スケールアップのための技術開発で重要になるのは、触媒電極を均一に形成できる塗布プロセスだが、東芝がこれまで開発を進めてきた燃料電池の製造技術を応用することで実現できるとしている。
なお、これらの技術開発は、2018〜2022年度の5カ年で環境省の委託事業として進められている「二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業」に基づく成果だ。今回の成果で、独自触媒電極を使った電解セルの大面積化とスタック化に道筋が付いたことから、2021年度以降は1m2当たり年間約35トンのCO2を処理できる実証機を用いたシステム実証を進めていく方針だ。
生成した一酸化炭素は化学品や燃料の原料に
東芝が開発を進めているP2C電解セルによってCO2から生成されるCOは、水素を混合した「合成ガス(シンガス)」とすることで、さまざまな化学品や燃料を製造できることが知られている。例えば、触媒反応であるフィッシャートロプシュ法を適用すれば、ガソリンや軽油、ジェット燃料を製造できる。この他にも合成ガスからは、酢酸やジメチルエーテルの原料となるメタノール、ブタン、アルデヒド、エタノールなどが製造できる。
東芝と東芝エネルギーシステム、東洋エンジニアリング、出光興産、全日本空輸、日本CCS調査の6社は2020年12月、P2Cにより排ガスなどから得られるCO2をSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能なジェット燃料)として再利用する、カーボンリサイクルのビジネスモデル検討を開始することで合意している。東芝 研究開発本部 研究開発センター トランスデューサ技術ラボラトリー 室長の水口浩司氏は「現在、新型コロナウイルス感染症の影響で航空業界は厳しい状況にあるが、2024年ごろには需要が回復すると予測されている。そのタイミングに併せて、CO2排出削減に貢献するSAFの航空機での利用を始められるようにしたい」と強調する。
なお、P2Cプロセスでは、CO2からCOを生成するのに電力が必要になる。この電力源として太陽光発電を用いる場合は人工光合成ともいえるが、電力源は風力発電などでよいこともあり、東芝はPower to Chemicalsと呼んでいる。実際に、P2C電極セルを用いたCO2処理システムの2030年以降の本格化的な事業化は、カーボンニュートラルの実現に向けた火力発電から再生可能エネルギーへの移行が背景にある。「火力発電は稼働率100%が前提になっているのに対し、安定的な発電が難しい再生可能エネルギーの稼働率は20〜30%が想定されている。この場合、ピーク時の余剰電力を捨てなければならなくなるが、それらの電力を無駄にしないためにはP2Cプロセスで化学品や燃料の製造に用いるという需要が出てくるはずだ」(水口氏)としている。
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