SiCウエハーの欠陥を無害化するプロセスを開発、SiCデバイスのコスト低減へ:FAニュース(2/2 ページ)
関西学院大学は、高効率のSiCデバイスの製造に必要なSiCウエハーの欠陥を無害化するプロセス技術「Dynamic AGE-ing」を豊田通商と共同開発し、6インチSiCウエハーでの性能検証を完了したと発表した。
6インチSiCウエハーでの実証は「豊田通商の協力があってこそ」
一般的なSiCウエハーの製造プロセスは、SiCのインゴッドからウエハー状にスライス、研削したものに対して、その表面を機械研磨とCMP(化学機械研磨)で平たん化した後、エピタキシャル層を成長させる。研磨時に加工ひずみが形成されるだけでなく、エピタキシャル層の成長時にも、バッファー層とドリフト層の2層を積層する必要があり生産性低下の要因になっている。
これに対してDynamic AGE-ingは、表面平たん化を行うアニーリング、加工ひずみ層を除去するエッチング、濃度1×1017〜5×1018cm-1の窒素添加によるSiC層の積層という3つのプロセスにより、表面からBPDを無害化したSiCウエハーを作成する。技術名称に用いられている「AGE」は、アニーリング(Annealing)、積層成長(Growth)、エッチング(Etching)の頭文字を取ったものだ。また、最終的に形成される表面のBPDフリー成長層の存在により、エピタキシャル層の成長時もドリフト層を積層するだけで済むので、従来手法よりも生産性を向上できるという。
従来の機械研磨とCMPのプロセスを置き換えることができる「Dynamic AGE-ing」。BPD密度が高い品質の悪いSiCウエハーへの適用が可能であり、エピタキシャル層の成長時にもメリットが得られる(クリックで拡大) 出典:関西学院大学
金子氏は「基礎技術は関西学院大学で研究を進めてきた高温材料技術になるが、SiCの個片レベルで行っていた実験結果を、6インチSiCウエハーに適用できるレベルまで拡大するのを1〜2年で実現できたのは豊田通商の協力があってこそだ」と強調する。
神戸三田キャンパスをサステナブルエナジーの一大研究拠点へ
関西学院 副理事長で関西学院大学 学長の村田治氏は「Dynamic AGE-ingは、金子氏が20年来研究してきた従来とは全く異なる技術だ。2017年から始まった豊田通商の共同開発により実用化が加速し、今回の発表のような成果も得られた。今後も、こういったオープンイノベーションの枠組みをさらに広げていく」と述べる。
なお、関西学院大学は2021年4月から、神戸三田キャンパス(兵庫県三田市)を拠点とする理工学部と総合政策部の2学部について、理学部、工学部、生命環境学部建築学部の理系4学部と総合政策部の5学部の体制に変更する。今後は、神戸三田キャンパスのこれら理系4学部を、Dynamic AGE-ingを手掛ける金子氏の研究室をはじめサステナブルエナジーの一大研究拠点にしていく方針である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Fin状トレンチ型SiC-MOSFETを製品化、サンプル出荷開始へ
日立パワーデバイスは、Fin状トレンチ型SiC-MOSFET「TED-MOS」を製品化した。2021年3月よりサンプル出荷を開始する。デバイス設計の自由度が向上したほか、耐久性と低消費電力を両立した。 - デンソーのSiCパワー半導体、新型ミライのFC昇圧コンバータで採用
デンソーは2020年12月10日、SiCパワー半導体を搭載した昇圧用パワーモジュールの量産を開始したと発表した。トヨタ自動車が同年12月9日に全面改良して発売した燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」に搭載されている。 - オン抵抗を40%、スイッチング損失を50%低減したSiC-MOSFETを開発
ロームは、車載パワートレインシステムや産業機器用電源向けに「1200V 第4世代SiC MOSFET」を開発した。短絡耐量時間を短縮せずにオン抵抗を従来品と比較して約40%、スイッチング損失を約50%低減した。 - 三菱電機から「世界最高レベル」のトレンチ型SiC-MOSFET、信頼性と量産性も確保
三菱電機は、1500V以上の耐圧性能と、「世界最高レベル」(同社)の素子抵抗率となる1cm2当たり1.84mΩを両立するトレンチ型SiC-MOSFETを開発した。家電や産業用機器、自動車などに用いられるパワーエレクトロニクス機器の小型化や省エネ化に貢献する技術として、2021年度以降の実用化を目指す。 - ボッシュが300mmウエハー工場に10億ユーロを投資、既存工場でSiCデバイスを生産
Robert Bosch(ボッシュ)は2019年10月8日、SiCパワー半導体向け300mmウエハーを生産するドイツ・ドレスデン工場が2021年末から稼働すると発表した。 - SiC需要拡大に対応しイタリア企業が日本市場に参入、エピ成膜装置を展開
イタリアの半導体製造装置メーカーであるLPE(エルピーイー)は2019年10月2日、日本市場に本格参入し新たに巴工業と代理店契約を行った他、エピ成膜装置の自動搬送型新製品「PE106A」を日本で販売開始すると発表した。