設計者CAEの検証は“理想的な設定”だけでよいのか?:実例で学ぶステップアップ設計者CAE(10)(3/3 ページ)
初心者を対象に、ステップアップで「設計者CAE」の実践的なアプローチを学ぶ連載。詳細設計過程における解析事例を題材に、その解析内容と解析結果をどう判断し、設計パラメータに反映するかについて、流れに沿って解説する。第10回は、前回に引き続き「疲労解析」をテーマに“最悪ケース”も考慮したアプローチを取り上げる。
考察
以上の内容から、軸心に対する振れ角度が微小であるため、解析結果に大きな差異が生じることはなく、想定した内容で「強度上問題ない」と考えることができます。ただし、使用材料のSN曲線については、より精度の高いものを必要とするという課題もあります。
今回想定した0.1度という軸心の振れ角度による部品先端の理想的な中心位置からの移動距離は90μmにすぎないことから、さらに角度設定の検証を行うことにします。
4.疲労破壊は発生するのか
疲労破壊が発生するかどうかを評価します。そこで、角度が10倍の1度の場合について評価を行います。
既に、SOLIDWORKSの3Dモデル上で角度基準となる平面を作成しているので、この平面の設定角度を1度にし、各スタディのシミュレーションツリーにおいて[全ての構成部品の更新]をクリックして解析設定を更新した後に、再計算を実行します。ただし、先に行った解析結果も重要な情報ですので、上書きしてしまわないようにモデルのコンフィギュレーション管理に注意し、結果は別名でファイル保存するなどしてください。
計算結果から4.3×e5[サイクル]で疲労寿命の可能性があります。角度1度では、先端部品の移動距離は0.9mmとなります。設計者の感覚として、この量は大きいものですが、筆者の経験では「異常時に起こる可能性があるもの」と判断できます。
さらに、角度0.1度の場合も含めて、角度が付いている場合には、部品先端面に均一に荷重が掛かるわけでなく、片当たりする状況もあるなど、より悪い条件も考えていかなければなりません。また、材質変更を含めた解析検証を行うことも選択肢として挙げられます。
補足:疲労寿命について
疲労寿命は、各位置で疲労破壊を引き起こすサイクル数(一定振幅スタディの場合)を表示します。プロットは、SN曲線と各位置の交番応力に準拠しています。
5.まとめ
設計者CAEでは、過去の問題事象を考えながら検証することが重要です。例えば、部品の形体や組み立て精度、サイズ公差も考えた部品のバラツキなどを視野に入れて取り組むべきです。また、今回のテーマとなった「降伏応力を超えなくても疲労破壊が発生する可能性がある」という視点から、設計者CAEとして疲労解析を実施すべきだと考えます。
解析というのは、新たな事象に向き合うたびに学ぶことが多くあり、その経験によって、設計者としての引き出しが増えていきます。そういう意味で、学ぶべきことはまだまだありそうです。 (次回へ続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- かつてCAEを軽く見ていた設計者がその必要性について説く
かつて2次元大好き信者だった筆者が“CAEの重要性”に気が付いた経緯を踏まえつつ、話題の「設計者CAE」の基本的な考え方について解説する連載。第1回は、CAEの基礎として、その役割やメリットを紹介するとともに、設計者CAEを実践することで得られる効果について取り上げる。 - 経験則に頼らない根拠ある設計を提案できる「設計者CAE」の活用メリット
かつて2次元大好き信者だった筆者が“CAEの重要性”に気が付いた経緯を踏まえつつ、話題の「設計者CAE」の基本的な考え方について解説する連載。第2回は、なぜバリバリの2次元信者だった筆者が“CAEの必要性”を痛感したのか? その決め手となった当時の心境の変化、意識の変遷について掘り下げる。 - CAE普及のためには設計と現場の“両輪”で3D推進を急ぐべし!
かつて2次元大好き信者だった筆者が“CAEの重要性”に気が付いた経緯を踏まえつつ、話題の「設計者CAE」の基本的な考え方について解説する連載。第3回は、設計も現場も1つになって、「総知総力」を挙げたモノづくりを実現するためのヒントを提示する。 - 設計者CAEお悩み相談室
「CAEの社内マニュアルは、本当に必要ですか?」――そう尋ねられたら、あなたはどう答える? ぶっちゃけ現場トーク、2回目。 - 設計者CAEも、そろそろレベルアップしなくちゃ!
設計者向けの解析ソフトウェア(CAE)について、関係者たちが一堂に会してとことん討論します。さてあなたの使っているソフトウェアのベンダさんは、出てくるでしょうか。 - 設計者さん、解析業務の他人任せはやめましょう
カタログにひかれて買うものの、いつの間にかホコリを被ってしまうCAE。そこに潜む本当の問題とは? CAEベンダのマーケティング担当者が本音を語る。