300m先を15cm間隔で測定可能、ソニーがSPAD画素の車載用積層型TOFセンサー開発:組み込み開発ニュース
ソニーは2021年2月18日、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)画素を用いた車載LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)向け積層型直接Time of Flight(dToF)方式の測距センサーを開発したと発表した。車載LiDAR向け積層型測距センサーとしてSPAD画素を用いたのは「業界初」(ソニー)だという。
ソニーは2021年2月18日、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)画素を用いた車載LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)向け積層型直接Time of Flight(dToF)方式の測距センサーを開発したと発表した。車載LiDAR向け積層型測距センサーとしてSPAD画素を用いたのは「業界初」(ソニー)だという。
SPAD画素とdTOF方式測距センサーを1チップ化
ソニーが今回採用したSPADは、入射した1つの光子(フォトン)から雪崩のように電子を増幅させる「アバランシェ増倍」を利用する画素構造で、弱い光でも検出可能であることが特徴だ。今回の技術では、これをdToF方式の受光素子として用いた。光源から出た光が対象物で反射してセンサーに届くまでの飛行時間(時間差)を検出し、対象物までの距離を測定するdTOF方式の測距センサーだが、SPAD画素を用いることで、長距離かつ高精度な距離測定が可能となるという。
ソニーでは、このSPAD画素構造に加え、CMOSイメージセンサー開発で培ってきた裏面照射型、積層型、Cu-Cu(カッパー・カッパー)接続などの技術を活用することで、SPAD画素と測距処理回路を1チップ化することに成功した。
裏面照射型のSPAD画素構造を用いた画素チップ(上部)と、測距処理回路などを搭載したロジックチップ(下部)を、Cu-Cu接続を用いて1画素ごとに導通させ、光を取り込む画素以外の回路部を下部に配置することで、開口率を高め22%の高い光子検出効率を実現している。
さらに、チップサイズは小型ながら、10μm画素サイズで有効画素数約11万(189画素×600画素)の高解像度化を実現し、最大300mの距離を15cm間隔で、高精度かつ高速に測距できるという。
また、検出した光子の飛行時間をデジタル値に変換するTime to Digital Converter(TDC)とパッシブ型クエンチング/リチャージ回路を独自に開発し、画素ごとにCu-Cu接続することで一光子当たりの応答速度を通常時で6ナノ秒とした。高速な測距処理により、クルマでの移動中でも周囲の状況をリアルタイムで検知、認識できる。さらに、SPAD画素構造を採用したことで、クルマに求められる−40〜125℃の厳しい条件下においても、安定的な光子検出効率や応答速度を実現できるという。
ソニーでは、今回開発した技術を搭載したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式のLiDARも評価用として開発しており、顧客やパートナーに向けて提供を開始しているという。なお、ソニーでは現在のところ「LiDARそのものの商用化の予定はない」としている。
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