電池交換なしで、長期間のモニタリングが可能な放射線線量計を開発:医療機器ニュース
産業技術総合研究所は、放射線量の推移がその場で確認できる、IoT対応の小型放射線線量計を開発した。BLEを用いた省電力無線通信技術により、電池交換なしで連続2年以上動作し、多数の線量計をモニタリングできる。
産業技術総合研究所(産総研)は2021年1月27日、放射線量の推移がその場で確認できる、IoT(モノのインターネット)対応の小型放射線線量計を開発したと発表した。電池交換なしで連続2年以上動作し、多数の線量計をモニタリングできる。
今回開発した線量計は、福島第一原子力発電所の事故に対応して産総研が2012年に開発し、近隣住民に配布している放射線線量計を改良したものだ。放射線センサーと衝撃センサーからなるセンサー部、ディスプレイ、光通信兼用のLED、ブザー、無線通信機能を備えたマイクロコントローラーユニット(MCU)、ボタン電池で構成されている。
従来の放射線線量計の技術とIoT技術を融合し、電力消費を抑えつつも、過去の線量率の時間推移グラフや現在の線量を、線量計本体のディスプレイやスマートフォンなどの情報端末で、ほぼリアルタイムに確認できるようになった。被ばく線量が増えそうな場合はLED表示やブザーで警告するなど、放射線被ばくの低減にも寄与する。
Bluetooth Low Energy(BLE)を用いた省電力無線通信技術により、一定時間間隔でのデータ送信が可能で、例えば、計測と表示、1分ごとにデータ送信をするケースでは、3Vのボタン電池1つで、交換せずに2年以上連続して動作する。
放射線管理区域で使用する場合は、作業員の入退室管理システムと連動させて、作業時だけ計測、データ送信すれば、年間2000時間程度の作業で約10年間電池交換が不要だ。さらに、環境中の放射線量を24時間連続でモニタリングする場合は、自己放電の少ない電池を使用することで、電池交換せずに10年以上連続で動作する。
また、同時に多数の放射線線量計を使用する場合、PCなどに搭載されているBLEデバイスでは機器の処理に優先度があり、データを取りこぼす可能性がある。この問題に対応するため、最大1000個程度の線量計について動作状態の変更やデータ収集ができる、専用のBLE送受信機と対応モニターも開発した。
なお、線量計から収集したデータは、スマートフォンなどの情報端末からも確認できる。
放射線線量計を長期間使用する際は、正確な計測や確実な動作のために、線量計を1年に一度は校正、点検する必要がある。今回開発した線量計は、専用のBLE無線機構と光通信機構を組み合わせることで、校正時の通信にかかる電力と時間を従来の20分の1まで削減した。定期的に校正しても電池寿命に影響はなく、多くの線量計を一括で校正できるため、正確性を長期にわたって維持できる。
搭載するLEDは、光通信機構も兼ねる。無線通信と組み合わせることで、無線通信の受信待機時の消費電力や通信時間を減らし、無線のみよりも安全な通信ができる。
研究グループは、開発した放射線線量計を実際の放射線計測で使用し、その有効性を検証する。今後、医療や非破壊検査、宇宙分野への応用も視野に入れている。
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