品質異常が起きやすいのはどんなときか、再発させないために何をすべきか:いまさら聞けない自動車業界用語(10)(3/3 ページ)
2回に分けて「品質」に関わる用語を説明しています。前回は品質異常の未然防止について解説をしました。今回は実際に起こる品質異常と、その対応について紹介します。
1986年1月に起きた、スペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故で考えてみましょう(参考:失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する/著・中尾政之、森北出版)。この事故は品質問題だけでなく技術者倫理としても事例として取り上げられています。チャレンジャー号は米国フロリダ州にあるケネディ宇宙センターで発射された直後に炎上して空中分解し、7人の乗組員が死亡しました。この事故の直接の原因は、ブースターロケットの燃料を密封するはずのOリングが低温で硬化して機能を果たさなくなり、燃焼ガスが漏れたことでした。打ち上げ当日の気温は−2℃でした。
Oリングが正しく機能する設計になっていれば事故は防げたのでしょうか? Oリングがシールできずに燃焼ガスが漏れてしまうケースがあることについて、NASAとブースターロケットを製造したサイオコールは事故以前に把握していました。しかし、暖かい日も寒い日も燃焼ガスが漏れてしまったという結果や、−7℃でもOリングのゴムに十分な性能があるというデータがあったため、エンジニアたちは当日の気温が−2℃だからといって打ち上げ中止を強く要請することができませんでした。また、当時の米国大統領であるドナルド・レーガン氏が、年頭教書演説の中でチャレンジャー号の乗員を出演させようとしていたことも、打ち上げ決行を後押ししたのではないかといわれています。
部品の異常だけでなく、スペースシャトル打ち上げの意思決定にも問題があり、対策としてNASAの組織の在り方が大きく見直されました。問題が起きたOリング使用部位については、Oリングを追加して冗長性を確保するとともに、ヒーターと温度センサーも設置しました。また、事故当時はパテでふさいでいた部分はJ型溝付き粘着シールに変更しています。この設計変更は成功でした。品質異常の再発を防止するためには、その場しのぎではなく、真因に基づいた恒久対策が必要なのです。
注意力や頑張りに頼った対策では不十分
品質異常への対策は、十分に効果のあるものでなくてはいけません。その例として、Twitterでよく笑いのネタにされる「トリプルチェックの弊害」があります。検査員を増やして複数人で品質を確認し、流出を防止するといった対策はよくみられるものですが、人の目に頼る以上、異常の検出力は十分ではありません。「他の人が検査しているのだから安心だ」という思い込みもあります。
品質異常対策は人の注意力や頑張りに頼るのではなく、設備や仕組み(標準類)などに落とし込んで環境として整えることが前提です。大事なのは再発を防止することです。異常が起きるとすぐに報告書を出す必要があり、十分な検証ができないこともあるかもしれませんが、同じミスが2度続けば、お客さんの信頼も低下します。
併せて品質異常の対策で必要なのは横展開です。同様の工程を持つラインに対して同じ対策を実施することです。対策前と同じ工程、仕組みで生産を行っている他ラインがあれば、同様の異常は起こり得ます。対策を共有することで、会社としての品質保証レベルを向上させることができます。
品質異常は緊急性の高い事案であることが多く、実務で起こると大変面倒なことになりがちです。ただし、その対応を誠実にやれば自社の品質向上や、客先からの信頼につなげることができます。実際の品質問題に対処する際に(あるいは品質問題が起きる前に)、今回の知識をぜひとも生かしていただけたらと思います。
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