医療機器のモノ売りからコト売りへ転換を加速、フィリップスの2021年事業戦略:製造マネジメントニュース
フィリップス・ジャパンは2021年1月21日、2021年の同社事業戦略に関する説明会を開催した。フィリップス・ジャパン 代表取締役社長 堤浩幸氏は、「Tasy」や医療MaaSの取り組みを振り返り、今後は顧客に価値を生み出す事業をデータドリブンで展開すると語った。
フィリップス・ジャパンは2021年1月21日、2021年の同社事業戦略に関する説明会を開催した。フィリップス・ジャパン 代表取締役社長 堤浩幸氏は、これまでの取り組みの成果である「Tasy(タジー)」や医療MaaSを振り返りつつ、今後は患者など顧客に価値を生み出す事業をデータドリブンで展開すると語った。
2020年はTasyや医療MaaSの取り組みを強化
説明会の冒頭で、堤氏は2020年の同社事業の展開について振り返りった。その中で取り上げたトピックスの1つが、トータル・ホスピタル・マネジメント・システム「Tasy」の事業強化だ。
Tasyは従来は診療科ごとに管理していたカルテを電子化、データベース化して全科で共有するとともに、業務システムや、医療会計、経営管理、サプライチェーン管理など各部門間にまたがる機能を統合化するソリューションだ。Tasy上の情報はリアルタイムで更新されるため、タイムリーな情報に基づいた診察や業務上の意思決定が可能になる。グループ内の複数の病院情報もTasy上で一元的に管理できる。
堤氏は「Tasyは病院経営や院内外業務の効率化、サプライチェーン管理をパッケージ化したプラットフォームだ。これまで日本IBMなど外部企業と連携しつつ、展開を進めてきた。医療安全を保障した上で、安定的な病院経営を実現し得る医療のインフラになる」と説明する。
また、「医療MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)」についての取り組みにも触れた。都市部と異なり、郊外地域や過疎地では、医療機関へのアクセス手段が乏しい場合がある。フィリップス・ジャパンは、こうした自宅から医療機関への移動の困難さを解消するためのモビリティサービスの開発に取り組んでいる。
例えば、2019年には青森県青森市と「ヘルステックを核とした健康まちづくり連携協定」を締結して、自動車を活用した簡易的な健康予防サービスなどを同市内で実施している。また、同年に長野県伊那市で、看護師や医療機器を積んだ自動車「ヘルスケアモビリティ」が患者宅を訪問して、医師が遠隔地から診察を行うオンライン診療の実証実験も開始した。「医療MaaSの取り組みは現在も継続中で、今後は従来の郊外型だけでなく都市型のソリューションも開発していきたい。地域ニーズを見極めながら、健康維持/向上のために診断サービスを強化していく」(堤氏)。
モノ売りからコト売りのビジネスモデル転換を加速
フィリップスジャパンは2021年以降も基本的にはこうした既存事業の強化を図る。ただ堤氏は、新規テクノロジーを取り入れてさらに革新性を強めていくと語った。
「Withコロナの時代において、外出を控えたいので通院が難しい、また、感染対策の結果、手術の実施が困難になった、といった問題が医療現場で生まれている。こうしたニーズに応えるため、新しいデジタル技術を取り入れて事業を加速する必要がある」(堤氏)
同社は2021年の事業戦略として注力する5つの領域として、「ヘルスケアの仮想化」「人中心のデジタル化」「データ分析を通じた価値の創造」「XaaS(アズアサービス)の創出」「新たな戦略提携を視野に入れたエコシステム構築」の5つを挙げる。
例えば仮想化については、院内の医療情報や患者の情報を統合したデジタルツイン構築のソリューション開発の他、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策としての在宅呼吸ケア「eHome Care」の取り組みも進める。この他、遠隔集中治療ソリューション「eICU」など、薬事を取って実用化可能なフェーズに入っている試みもある。
また、堤氏は「ソリューション事業の価値を最大化するために、AI(人工知能)やデジタル技術を積極的に活用する。これらの技術を活用する上では質の高いデータ収集が重要だが、これを実現すればデータドリブンの新たな診療プログラムが生み出せるようになる」と意気込む。
従来のモノ売り型事業からコト売り型事業へと移行するという、ビジネスモデルの変革も進める。患者にパーソナライズした治療やサービスを提供するための「ヘルスケアコマンドセンター」と呼ばれるシステムを開発して、個々人に合わせた健康維持に向けたアドバイスを提供できるようにする。
さらに、これらのサービスを単発で打ち出すのではなく、単一のプラットフォーム上に統合することで全サービスの利便性を高め、サービス間のシナジーを向上させる計画だ。このプラットフォームとなり得るのがTasyだと堤氏は語る。
堤氏は医療業界におけるテクノロジー活用展望として「(医療業界も)『ボリュームの世界から質の世界』へと変わりつつある。今まではサービスや製品を提供することが企業の役割だったが、これからの世界では『価値』の提供が重要になる。鍵を握るのはデータ連携だ。タイムリーにデータ連携を図れる医療のデータ基盤を構築する必要がある。データは収集すればそれでよいわけではない。患者個々人にマッチングした医療サービスの提供や、健康状態の予測などをタイムリーに行えるようにしたい」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 新型コロナにMaaSや遠隔問診で対応、フィリップスが医療ソリューションを提案
フィリップス・ジャパンは新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策として、同社が提供可能な医療ソリューションを紹介するオンライン会見を開催した。会見中では遠隔問診サービスやMaaSなどの活用が提案された。 - 日本発で取り組む医療×MaaS、病院にも稼働率改善が必要だ
自動車業界以外の企業はMaaSでどんな課題を解決し、何を実現しようとしているのか。MONETコンソーシアムのメンバーでもあるフィリップス・ジャパンの戦略企画・事業開発兼HTSコンサルティング シニアマネジャー 佐々木栄二氏に話を聞いた。 - 通院や往診が難しい地域に「医療MaaS」でオンライン診療、フィリップスとMONET
フィリップス・ジャパンは2019年11月26日、長野県伊那市において、同年12月から医療MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)の実証事業を行うと発表した。看護師と各種医療機器を乗せた「ヘルスケアモビリティ」が患者宅を訪問し、医師が遠隔からオンラインで診療できるようにする。実証事業の期間は2021年3月末までで、フィリップス・ジャパンは伊那市やMONET Technologiesと協力して取り組む。 - オリンパスの新たなセキュリティ組織はなぜ“顧客中心”を掲げているのか
日立製作所が、2020年11月8〜6日に開催したオンラインイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2020 TOKYO ONLINE」に、医療機器大手のオリンパスが登壇。同社 執行役員 CISO(最高情報セキュリティ責任者)の北村正仁氏が、2019年4月に発足した新たなセキュリティ組織の体制やPSIRT構築などについて説明した。 - 介護業務の効率を約30%向上、コニカミノルタのケアサポートソリューション
コニカミノルタジャパンは2016年6月29日、東京都内で会見を開き、事業方針を説明した。ヘルスケア関連では、介護事業者の業務を効率化できる「ケアサポートソリューション」の展開に注力する方針である。 - 医療機器で存在感高めるザイリンクス、オリンパスや「da Vinci」も採用
ザイリンクスは、医療機器分野における同社製品の採用状況について説明した。画像診断機器におけるAIの採用が広がるとともに、従来スタンドアロンで用いられてきた医療機器がIoTとして通信接続されるようになることで、ArmのアプリケーションプロセッサとFPGAのファブリックを併せ持つ同社製品の採用が拡大しているという。