100年に一度の大雨でも緊急放流を回避、日立がダム放流計画の自動作成技術を開発:製造ITニュース
日立製作所と日立パワーソリューションズが、大雨による河川氾濫の被害の最小化に役立つダム放流計画の自動作成技術を開発したと発表。同技術により、100年に一度の規模の大雨に対して、緊急放流を回避しつつ、下流のピーク流量を最大で約80%低減し、浸水を発生させない計画を10分以内に立案できることを確認した。
日立製作所(以下、日立)と日立パワーソリューションズは2020年12月15日、オンラインで会見を開き、大雨による河川氾濫の被害の最小化に役立つダム放流計画の自動作成技術を開発したと発表した。同技術により、100年に一度の規模の大雨に対して、緊急放流を回避しつつ、下流のピーク流量を最大で約80%低減し、浸水を発生させない計画を10分以内に立案できることを確認した。また、1000年に一度の規模の大雨で浸水が発生する場合も、浸水面積を95%低減可能なことも確認したという。2021年秋ごろをめどに、日立パワーソリューションズがダム管理業務を支援するソリューションとして提供する予定。2024年度に売上高3億円を見込む。
新技術は、気象庁による雨の予測データとダムの水位、ダムの放水量などを入力データとして、「プログレシップ動的計画法」と呼ぶ数理最適化手法を用いることにより、ダム下流の河川流量を可能な限り抑える放流計画を自動作成できる。作成する放流計画は、大雨に先立ってダムの水位を下げる「事前放流」と、上下流の複数のダムの貯留や放流のタイミングをずらす「ダム連携」の対応を組み合わせたもので、ダムの放流量を急激に変化させない「放流の原則」などの現場のルールを順守している。
プログレシップ動的計画法によるダム放流計画の立案では、最初は下流の河川流量が小さくなるように粗く調整を行い、そこから「放流の原則」など現場のルールを満たすようにだんだんと細かな調整を重ねていく。例えば、最初はダムの貯水量を106m3単位で調整した後、そこから半分の単位、さらに半分の単位といった形で調整幅を半分ずつ細かくして調整を繰り返していくことで、短時間のうちに最適な放流計画を立案できるようになる。
開発した新技術の実効性の確認は以下のような条件で行った。下流に流れ込む3本の上流のそれぞれに3つのダムが並列する状態を想定した上で、2000年以降に観測された6つの降雨データについて100年に一度の規模の大雨に相当するように引き延ばし、ダム流入量は日立パワーソリューションズのリアルタイム洪水シミュレーター「DioVISTA/Flood」を使って求めた。
実験の結果、人が行う従来の一般的な放流計画では流入と放流がほぼ同じ量となる「緊急放流」が起こっているのに対し、新技術を用いた放流計画ではダムのピーク流量や下流河川のピーク流量を大幅に削減することができた。
日立パワーソリューションズが販売するDioVISTA/Floodは、水害リスクの検証の他に、水害から事業を守るBCP(事業継続計画)策定の支援などにも活用されている。新技術の提供に向けては、DioVISTA/Floodのシミュレーション技術にAI(人工知能)技術を組み合わることで、より高い精度でダム流入量を予測できるようにしていく方針だ。
近年、気候変動の影響で大雨による深刻な水害が頻発しており、その対策が急務となっている。従来は、技術者が時々刻々の雨水のダム流入量を観測し、その都度、ダムの放流量を決めることが一般的だったが、大雨が頻発する中で河川氾濫を最小化するために、事前放流や複数のダムにまたがるダム連携などの複雑で高度な運用が求められるようになってきている。しかし、大雨という緊迫した状況の中で、放流の原則をはじめとする現場のさまざまな制約やルールを順守しながら、上下流のダムの貯水状況や下流までの流下時間など、さまざまな要素を考慮して最適な放流計画を短時間で立てることは、経験を積んだ技術者でも容易とはいえない状況にあった。新技術は、これらの課題を解決するものだ。
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