自動車データから得た“洞察”のオープンな活用へ、ブラックベリーとAWSが協業:車載ソフトウェア
ブラックベリーがインテリジェント車載データプラットフォーム「BlackBerry IVY」について説明。IVYは、クラウドベンダーのAWSとの協業により展開するもので、さまざまなセンサーやECU、車載ソフトウェアから得られる自動車のデータの多様性を吸収し、標準的なオープンデータとして利活用できるようにするプラットフォームだ。
ブラックベリー(BlackBerry)は2020年12月4日、オンラインで会見を開き、インテリジェント車載データプラットフォーム「BlackBerry IVY(以下、IVY)」について説明した。IVYは、クラウドベンダーのAWS(Amazon Web Services)との協業により展開するもので、さまざまなセンサーやECU(電子制御ユニット)、車載ソフトウェアから得られる自動車のデータの多様性を吸収し、標準的なオープンデータとして利活用できるようにするプラットフォームだ。現在開発中で正式なリリース時期は非公開となっているが、既に複数の自動車メーカーに提案しているという。
自動車業界は100年に一度ともいわれる大変革期を迎えている。その変革の波はCASE(コネクテッド、自動運転化、シェアリング/サービス、電動化)に代表される4つのトレンドとして表されることも多い。ブラックベリー アジア太平洋地域担当 エンジニアリングサービス シニアディレクターのウェイユー・リアン(Weiyu Liang)氏は「CASE時代を迎える今後の自動車は、フィーチャーフォンがスマートフォンになるのと同じくらいの進化が求められる。しかしそれを実現することは容易ではない。なぜなら、1台の自動車に100個搭載されているといわれるECUに代表されるように多様なハードウェアが組み込まれているからだ。組み込まれるソフトウェアも車種ごとにカスタマイズされており、車載ネットワークのプロトコルやインタフェースも異なる」と語る。
さらに、自動車を構成する車載システムの開発には国際標準であるISO 26262に基づく機能安全要求を満たす必要もある。機能安全要求を満たすには、センサーやECUから得られる自動車のデータの取り扱いに制限が生じ、車載ソフトウェアのアップデートや変更を柔軟に行うことも難しくなる。
IVYは、さまざまなハードウェアやソフトウェアから生成される自動車データの多様性を吸収するとともに、機能安全要求を満たしながらCASEで求められる機能に役立つ形でデータを広く利用できるようにするプラットフォームである。「車両内ローデータ(Raw Data)を読み込んで、機械学習で分析することでさまざまに活用できる実用的なインサイト(洞察)を得る。このインサイトに基づくデータを汎用的なAPIを介してクラウドなどで広く利用できるようにする」(リアン氏)。
QNX以外の車載OSでも利用可能
ブラックベリーは車載OSとして「QNX」を展開しているが、IVYはQNX以外の車載OSでも利用可能なミドルウェアとして提供していく方針だ。カーナビゲーションシステムなどが組み込まれているヘッドユニットだけでの運用にとどまらず、複数の車載システムの統合制御などに用いられるゲートウェイECUなどを使って分散処理を行うことも検討されている。リアン氏は「現時点ではQNXをOSとして用いる形でIVYの開発を進めている。ISO 26262で最も安全要求が厳しいASIL-Dに対応するなどQNXがOSとして最適だと考えているが、必ずしもQNXを使わなければならないわけではない」と説明する。
「BlackBerry IVY」の構成。自動車のローデータを車両内でインサイトに変換し、インサイトを生成する。機械学習モデルはAWSのクラウドを用いてアップデートすることもできる(クリックで拡大) 出典:ブラックベリー
センサーやECUから得たローデータを使ってインサイトを得る機械学習モデルは、AWSのクラウド上で学習したモデルを実装することができる。追加学習を行った上で機械学習モデルをアップデートすることなども可能だ。IVYで利用するクラウドは現時点ではAWSが前提になっているが「開発が進み次第、他クラウドへの対応も検討したい」(リアン氏)という。
リアン氏は「自動車からはさまざまなデータを得られるが、ハードウェアやソフトウェア、ネットワーク、プロトコルなどの関係により必ずしも標準的には扱えない。IVYを使えば、これらのローデータから得たインサイトを標準的なAPIでオープンに利用できる。このことは、CASEによる進化を進める上で自動車メーカーのみならず、ドライバーや自動車関連アプリケーションの開発者にとってもメリットになるはずだ」と述べている。
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