スマート工場でつながるエンジニアリングチェーン、“長年の壁”をどう崩すか:いまさら聞けないスマートファクトリー(3)(2/3 ページ)
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。第3回では、エンジニアリングチェーンの連携を切り口に、製造現場と設計部門の連携の意味を紹介します。
エンジニアリングチェーンの連携とスマート工場の関係
さて、前回矢面さんは、新しく来た専務と話し合いを進め、ロードマップなど共通認識を作り上げ、それを小さいながらも具体化した実証を進めるという話をしていました。
印出さん、こんにちは。
矢面さん、こんにちは。その後、専務との関係はどうなの?
それがすごくいい感じになったんですよ。ロードマップで共通認識が生まれたことで、私が現場でやっているデータ取得が、将来的に新たなデータ活用につながるということがイメージできたみたいでいろいろサポートしてもらえるようになりました。
すごくいい雰囲気ね。
逆に自分たちの製造現場でも現場の生産性を高めたり、保全を楽にしたりするだけではなくて「もっと違った形でこうしたデータを生かせるのではないか」など新たな発想も生まれてきて、モチベーションが上がっています。
大きな進歩になったみたいでよかったわ。ところで今日はどうしたの?
そうなんです。せっかく部門間を越えた取り組みが進みつつある中で、専務からは「エンジニアリングチェーンとしても連携を進めないとダメだ」と言われました。エンジニアリングチェーンを結ぶということを考えると、設計と製造の連携だろうと考えて、設計部門に行ったら、あまり乗り気ではなくてどうしたものかという感じなんですよ。
確かに「スマートファクトリー化のためにエンジニアリングチェーンを結ぶ」と言っても、設計部門にとっては「それが何か」という感じでしょうからね。
よく分かりますね。本当にそんな感じだったんですよ。まあ、確かにわれわれの部門でも「図面以外でつながるものあるのか」なんて声も上がっているんですが、エンジニアリングチェーンの連携というのはどうすればいいんでしょうか。
そうね。でも、10年後や20年後も同じモノづくりをしていくのかという観点で見た場合には、設計と製造という縦割りの関係は大きく崩れる可能性があるわ。一体化していく必要があるというのは事実ね。
どういうことですか。
消費者のニーズの多様化が進む中で、製造現場にはより柔軟な対応が求められているといえるわ。マスカスタマイゼーションともいわれているけれど、日本にある多くの工場が少量多品種型になっている今、製造現場だけでこれらを実現するのは難しくなりつつある状況があるの。
「設計と製造の壁」は、組み立て型の製造業では長らく指摘されながら、解消が進んでこなかった問題です。ただ、時代が進み、いよいよ真剣に考えなければならない段階に入っています。エンドユーザーのニーズの多様化は進む中、これらの多様なニーズに対応するためには、より柔軟な製造現場が必要になります。スマート工場の理想の1つとしては「マスカスタマイゼーション」があるといわれていますが、これを実現していくためには、製造現場だけではなく、前段階の設計、さらに調達や受発注などの部門との連携が必須となります。
実際に2020年版ものづくり白書での調査では「製品設計のリードタイム短縮を図るための取り組みとして重視しているもの」として、「生産技術、製造、調達といった他部門との連携促進」という回答が最多となっています。
さらに、工程設計(生産技術)についても「工程設計力(生産技術)が5年前に比べて向上している」とした回答が36.9%ありましたが、その回答者に「工程設計力が向上した理由」を聞くと、「生産技術、製造、調達といった他部門との連携促進」が79.2%となり、最大となりました。設計と製造が柔軟に連携できるような仕組みがより求められていることが伺えます。
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