製造現場の柔軟性を生み出す「アダプティブマシン」、その4つの価値とは:製造現場 先進技術解説(3/3 ページ)
COVID-19を含め製造現場にさらなる柔軟性が求められる中、注目を集めているのが「アダプティブマシン」である。アダプティブマシンとはどういうもので、どういう価値を持つのかという点についてを紹介する。
アダプティブマシンは何をもたらすのか
アダプティブマシンは、デジタル世代の消費活動とそれを生産する従来型マシンの間にあった障害を解決し、主に4つのベネフィットをユーザー(製品生産者)とマシンメーカーへもたらします。その例を実際の事例を交えてご紹介します。
1.瞬時の段取り替え(型替え)
アダプティブマシンは、リニア搬送テクノロジーによって、独立制御されたシャトルにより、生産性を損なうことなく、その場で製品レシピを変更することができます。レシピ変更はタッチパネルのボタンを押すだけの簡単な操作で、ツールや部品交換、人の介入を必要とせず、完全に自動化されています。さらに、モジュラー設計とデジタルツインを使用して新しい操作をシミュレートすることで、生産ラインを簡単に再構成し、新製品を生産することも可能となります。
2.パフォーマンスの向上
アダプティブマシンでは、柔軟性とパフォーマンスがトレードオフになるのを限りなく低減できることが特徴となります。負荷分散された並列処理、製品フローの合流と分岐、完全に同期されたロボット、厳密に時間を決められたシーケンシャルプロセスを、ダイナミックで応答性の高いソリューションに置き換えて、効率性と生産性を向上させることが可能です。これにより、従来型システムよりも、PPM(Product per Minutes)を向上させられます。
3.生産ラインに柔軟性をもたらす
アダプティブマシンを活用することで、柔軟なトラックレイアウト、予期せぬ需要急増に対して拡張することが可能です。独立して制御されたシャトルの緊密な同期は、高いスループットと生産性の向上につながります。また、マシンの設置面積をさらに小さくすることも可能です。デジタルツインは、事前に構成を最適化し、将来の要件に簡単に適応することができます。
4.マスカスタマイゼーションへの適応
アダプティブマシンを活用することでマスカスタマイゼーションを実現することが可能となります。マスカスタマイゼーションとは、マスプロダクション(大量生産)の効率性で、カスタム製品を作ることができる仕組みとなります。柔軟性をプログラムにより確保できるアダプティブマシンを活用することで、費用対効果の高い自動化されたマスカスタマイゼーションを実現できます。消費者は直接メーカーにカスタマイズされた、または小バッチサイズのプロダクトを注文できるようになります。
ここまで、製造現場に柔軟性をもたらすアダプティブマシンとはどういうもので、どういう技術によって構成され、どういう利点を生み出すのかを紹介してきました。筆者の所属するB&Rではこのアダプティブマシンを積極的に推進しているのですが、これをテーマとしたセミナーを開催したところ、グローバルで400社、日本からは150社が参加され、製造現場で生まれている課題は世界共通だとあらためて感じました。今回示した技術要素などにより、新たなモノづくり現場への参考になれば幸いです。
筆者紹介
小松和幸(こまつ かずゆき)
B&R株式会社セールスマネージャー
日系産業用制御メーカーにて、主に自動車産業向けアプリケーションのシステム営業を担当。2014年にオーストリアのオートメーションソリューションメーカーであるB&R日本法人に入社。スタートアップメンバーとして参画し、OEMセールスマネージャーを経て現職。入社以来、日本の機械および装置メーカーが世界市場で勝ち続けるために価値あるソリューションやテクノロジーは何かを考え、精神一到の気持ちで臨んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。 - エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。 - 工場自動化のホワイトスペースを狙え、主戦場は「搬送」と「検査」か
労働力不足が加速する中、人手がかかる作業を低減し省力化を目的とした「自動化」への関心が高まっている。製造現場では以前から「自動化」が進んでいるが、2019年は従来の空白地域の自動化が大きく加速する見込みだ。具体的には「搬送」と「検査」の自動化が広がる。 - 見えてきたスマート工場化の正解例、少しだけ(そもそも編)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第28回となる今回は、スマート工場化において見えてきた正解例について前提となる話を少しだけまとめてみます。 - スマートファクトリーはエッジリッチが鮮明化、カギは「意味あるデータ」
2017年はスマートファクトリー化への取り組みが大きく加速し、実導入レベルでの動きが大きく広がった1年となった。現実的な運用と成果を考えた際にあらためて注目されたのが「エッジリッチ」「エッジヘビー」の重要性である。2018年はAIを含めたエッジ領域の強化がさらに進む見込みだ。 - いまさら聞けない「マスカスタマイゼーション」
IoT(モノのインターネット)活用などで実現するスマートファクトリーの理想像とされる「マスカスタマイゼーション」。このマスカスタマイゼーションとは何かを5分で分かるように簡単に分かりやすく解説します。