東芝が「世界初」の水系リチウムイオン電池を開発、低温対応と長寿命を実現:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
東芝がリチウムイオン二次電池の電解液を水に置き換えた水系リチウムイオン電池を開発。水系リチウムイオン電池は既に研究開発事例があるものの、−30℃の環境下での安定した低温充放電性能と、2000回以上の充放電が可能な長寿命性能を備えるものは「世界初」(東芝)だという。
消防法の危険物に該当しないことによるさまざまなメリット
リチウムイオン電池は、鉛バッテリーなど他の二次電池と比べて高いエネルギー密度、出力密度を持つことからさまざまな用途で利用されている。特に、日本政府が掲げる2050年の温室効果ガス排出ゼロという目標に向けては、太陽光発電システムなどの再生可能エネルギーの出力変動に対する平準化に用いるとしてリチウムイオン電池の需要拡大が見込まれている。
ただしリチウムイオン電池は、その高いエネルギー密度と出力密度に起因して発火事故を起こす可能性がある。事故を避けるための安全システムを併せて導入しなければならないため、電池セル単体だけでなく定置型蓄電システムとしても高コストになりがちという課題があった。このため、リチウムイオン電池よりもエネルギー密度や出力密度は低いが、安価で安全な鉛バッテリーが定置型蓄電システムに用いられることも多い。
今回開発した水系リチウムイオン電池は、定置型蓄電システムを強く意識して開発されたものだ。従来のリチウムイオン電池は、電解液として可燃物の有機溶媒を用いているため、多数の電池セルを組み合わせて大容量のシステムに組み上げる場合、消防法の危険物に該当してしまう。そのため、電池セルを強固にするための外装缶の採用や、万が一の事態に対応するための安全システムが必要になっていた。また、消防法に戻づく設置制限として周囲に空き地を設ける必要もある。
水系リチウムイオン電池は、消防法の危険物に該当せず、これらの付帯コストを簡略化できるため低コスト化を図れる。消防法に戻づく設置制限もないので、さまざまな場所に設置できるようになる。例えば、住居の近くやオフィスビル内などだ。リチウムイオン電池だけでなく、安価で安全なことから定置型蓄電システム向けに需要が拡大している鉛バッテリーの置き換えも可能である。
ただし、水系リチウムイオン電池は、一定レベルの厚みが必要な固体電解質セパレータを用いる必要がある。このため、薄型のフィルム材料である多孔質セパレータを用いるリチウムイオン電池よりもエネルギー密度や出力密度では低くなる。エネルギー密度が重視されるモバイル機器や電気自動車向けでは従来のリチウムイオン電池が引き続き用いられることで住み分けられるとしている。久保木氏は「競合する二次電池としては、安全性の高さの観点で見ると全固体電池になるかもしれない」としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 鉛バッテリーがリチウムイオン電池を超える、古河電工がバイポーラ型蓄電池で
古河電気工業と子会社の古河電池は、鉛バッテリーをベースにした「バイポーラ型蓄電池」を共同開発したと発表した。再生可能エネルギーの発電量変動抑制に用いられる長周期向けとなっており、電力貯蔵用蓄電システムを構築する場合にリチウムイオン電池と比べてトータルコストを半減できるとする。 - 村田製作所は全固体電池を2020年度中に量産へ、リチウムイオン電池も高出力化
村田製作所はオンライン展示会「CEATEC 2020 ONLINE」に出展する電池関連製品について説明。全固体電池は開発が順調に進んでおり、2020年度中(2021年3月まで)の量産開始という当初計画に変更はない。また、円筒型リチウムイオン電池については、50〜60Aの大電流出力が可能な製品を開発しており2022年4月に投入する計画である。 - 京セラが世界初のクレイ型リチウムイオン電池、粘土状の電極材料が違いを生む
京セラは、「世界初」(同社)となるクレイ型リチウムイオン電池の開発に成功するとともに、採用製品の第1弾となる住宅用蓄電システム「Enerezza(エネレッツァ)」を2020年1月に少量限定発売すると発表した。クレイ型リチウムイオン電池は、粘土(クレイ)状の材料を用いて正極と負極を形成することから名付けられた。 - リチウムイオン電池を車載用にするための幾つものハードル、そして全固体電池へ
クルマのバッテリーといえば、かつては電圧12Vの補機バッテリーを指していました。しかし、ハイブリッドカーの登場と普及により、重い車体をモーターで走らせるために繰り返しの充放電が可能な高電圧の二次電池(駆動用バッテリー)の重要性が一気に高まりました。後編では、ニッケル水素バッテリーの欠点だったメモリ効果をクリアしたリチウムイオンバッテリーについて紹介します。 - 全固体電池はマテリアルズインフォマティクスで、変わるパナソニックの材料研究
マテリアルズインフォマティクスによって二次電池や太陽電池の材料開発で成果を上げつつあるのがパナソニック。同社 テクノロジーイノベーション本部の本部長を務める相澤将徒氏と、マテリアルズインフォマティクス関連の施策を担当する同本部 パイオニアリングリサーチセンター 所長の水野洋氏に話を聞いた。 - キャパシター並みの入出力密度を持つリチウムイオン電池、トヨタ紡織が開発
トヨタ紡織は、「人とくるまのテクノロジー展2018」において、新たに開発したラミネート型リチウムイオン電池を展示した。従来のハイブリッド車向けリチウムイオン電池と同程度のエネルギー密度でキャパシター並みの入出力密度を持つ。ハイパワーが求められるスーパースポーツカーやプレミアムカー向けに提案していく方針だ。