日産が語る、自動車製造における3Dプリンタ活用の期待と課題:HP デジタルマニュファクチャリング サミット 2020(2/2 ページ)
日本HP主催の「HP デジタルマニュファクチャリング サミット 2020」のスペシャルパネルディスカッションにおいて、日産自動車の南部俊和氏とSOLIZE Productsの田中瑞樹氏が登壇。アディティブマニュファクチャリングを自動車の部品製造に適用する際の課題や現状の取り組み、今後の展望について、それぞれの立場で意見が述べられた。
3Dデータの流通でモノを作るサプライチェーン変革
次に、3Dプリンタ活用のメリットの1つである“カスタマイズ”の可能性について、SOLIZE Productsの田中氏は、同社が製作支援を行っているベンチャー企業のOUIが手掛ける「Smart Eye Camera」の事例を紹介した。
Smart Eye Cameraは、スマートフォンに接続して使用するタイプの眼科向け検査デバイスだ。さまざまなスマートフォンに接続して利用するため、高い精度が求められると同時に、開発において迅速なトライ&エラーと、素早く製造できることが要求されていたという。この製作支援を通じて感じたことが、「従来のように、作ったモノを運ぶという手段ではなく、3Dデータを送るという手段で、素早く必要とする現地にモノを届けられるということだ」と田中氏は述べる。
この3Dデータさえあればモノが作れるというメリットは、アフターパーツなどの領域で強みを発揮する。現物しかなく、金型がないような古い自動車部品などは、3Dスキャナーを活用して3Dデータを作成しさえすれば、金型なしで同じパーツを製造できる。また、単なる複製としてではなく、3Dデータを作り替える(編集する)ことで、後から機能を追加したり、形状を工夫したりといったカスタマイズや、より良い製品開発も可能となる。田中氏は「最終的には、個人に合わせたカスタマイズという領域も考えられるが、OUIの事例のように、さまざまなモノにフィットさせる形でモノを作り替えるということが素早く実現できる。3Dプリンタの活用は、サプライチェーンの変革にも寄与できると考えている」と語る。
3Dプリンタを自動車製造に本格活用するために必要なこと
では、3Dプリンタを自動車製造に活用していくために越えなければならない課題は何か。日産自動車の南部氏は「自動車の研究開発というものは、研究を開始してから実際にクルマとして製品化されるまで、およそ10年間くらいかかるものだ。3Dプリンタのような新しい技術を実際の製品に適用するとなると、いくつかのポイントをクリアする必要がある」と述べる。
そのポイントとして、南部氏は設計の問題を挙げる。いわゆる「DfAM(Design for Additive Manufacturing)」への対応だ。また、材料についても、まだ使用できる材料が限定的であること、材料コストが高いことなどを指摘し、プロセスそのものもさらなる速度向上が必要だという。
「このような幾つかの課題を、さまざまなパートナーとの協業も視野に入れながら、解決していかなければならない。例えば、研究の初期段階から協業するなど、ゴールを見据えたエコシステム作りが重要だと考えている」(南部氏)
一方、3Dプリンティング技術の普及や導入支援を行うパートナーの立場から、今後求められる技術支援の役割について、SOLIZE Productsの田中氏は「3Dプリンタはまだ新しい工法なので、最終製品への応用に際し、品質のクライテリア(判断基準)をどのように設け、どうやってそれを評価すべきかが重要だと考えている。そういったニーズに対して、われわれもしっかりとノウハウを蓄積し、エンジニアを育成して、サービスレベルを高めていきたい。そのために必要なさまざまな準備を進めている」と語る。
そして、パネルディスカッションの最後、(一言で)3Dプリンタとはどのようなテクノロジーであるか、という問いに対して、日産自動車の南部氏は「フレキシブルマニュファクチャリング。自動車のモノづくりを大きく変革するポテンシャルを持った技術ではないかと考えている」と回答。SOLIZE Productsの田中氏は「アディティブマニュファクチャリングは性能面の劇的な向上とともに、サプライチェーンを含めたさまざまな経営課題を解決する手段になる可能性を秘めていると感じている」と述べ、パネルディスカッションを締めくくった。
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