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設計の3DデジタルツインをDXの原動力に変える製造業DX推進のカギを握る3D設計(4)(2/2 ページ)

日本の製造業が不確実性の高まる時代を生き抜いていくためには、ITを活用した企業の大変革、すなわち「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への取り組みが不可欠だ。本連載では「製造業DX推進のカギを握る3D設計」をテーマに、製造業が進むべき道を提示する。第4回は一段高い視点から、製造、サービス、営業に至るまでの「3Dデジタルツイン」の活用によるDXの実現について解説する。

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3DパーツカタログでサービスのDXを実現する

 具体的に見てみよう。筆者の友人が経営するドイツのTID Informatik(以下、TID)が開発した「CATALOGCreator」は、3Dデジタルツインから3Dパーツカタログ(製品が故障した際、故障部品を特定するために利用される)を自動生成するためのソリューションである。このシステムにより配信されたパーツカタログは、3Dモデルを分解表示し、それを起点にサービス情報を参照可能にしている。もちろん、サービス情報と3Dモデルは相互にリンクされており、自在に情報を取り出すことができる。これをWebで配信することで、世界中のサービスマンが最新のサービス情報に迅速にアクセスし、顧客からの修理要望に応えられるようになっている。

 興味深いのは、CATALOGCreatorの導入時、まず、顧客の3D設計の状況を評価することから始める点である。つまり、設計の成果物が、3Dモデルと部品表、必要な属性情報がそろった「完全な3Dデジタルツイン」(連載第1回を参照)となっているかをチェックするのである。欧米には「MBE(Model Based Enterprise)」という、企業/サプライヤー/サービス事業者といった製品全体の関係者間でデータを共有し、その効用を最大化しようという考え方がある。完全な3Dデジタルツインを整備することで、まさに、その入り口に立つことができる。

3Dデジタルツインから3Dパーツカタログを生成
図3 3Dデジタルツインから3Dパーツカタログを生成 [クリックで拡大]

 DX視点で大事なのはここからだ。現場で故障した部品が簡単に特定できるようになれば、そこから「部品の受発注をしたい」というニーズが生まれる。受発注システムとつながれば、世界のどこで、どんな部品の発注が多いのかも分かる。これは、どの部品が壊れやすいかという情報でもあり、設計の改善にもつながる。このシステムは部品のサプライビジネスにも強力な武器となる。サプライ事業は、その規模が拡大すれば、互換機メーカーの脅威にさらされるが、分かりやすい部品検索と発注システムにより、顧客を囲い込むことができる。こうして、3Dデジタルツインを活用したDXの世界が広がっていく。

3Dカタログで営業のDXを推進する

 With/Afterコロナの時代が長引けば、非対面の営業スタイルも重要になる。ここでは、「3Dカタログ.com」を展開する福井コンピュータアーキテクトの取り組みを紹介する。

 家を建てる際には、施主と、家を建てる住宅メーカーと、そこにキッチンやお風呂を納める建材メーカーの三者が登場する。3Dカタログ.comは、この三者をマッチングさせ、それぞれにビジネスメリットと顧客メリットを提供しようという取り組みである。既に、家の3Dモデルも各種の建材も共通3Dモデルの「XVL」で流通しているので、Web上に無限の広さをもったリアルな3Dショールームが展開できることになる。同社は建築CADでも日本最大級のシェアをもっているので、このサービスは建築建材業界の3Dプラットフォームとなるかもしれない(関連リンク)。

福井コンピュータアーキテクトの取り組み
図4 福井コンピュータアーキテクトの取り組み [クリックで拡大]

消費者を巻き込み、3Dでビジネスモデルを変える

 社内で3Dデジタルツインを共有し、業務プロセスを並列化することはDXの入り口である。3Dの最大の特長は何といっても“分かりやすさ”だ。しかも、製品と1:1に対応した3Dモデルである。3Dデジタルツインを起点にすれば、圧倒的に関連情報を取り出しやすくなる。消費者まで3Dを届ければ、新しいサービス事業や販売形態を構築してビジネスモデルの変革を図ることも可能となり、また一段とDXのレベルが上がっていく。

 COVID-19は、社会の最も弱いところを突いてくるといわれる。日本の場合、国も企業もその生産性の低さが突かれた。国は「紙とハンコの文化」を、製造業は「現地現物と紙図面の文化」をデジタルで変革することが求められている。菅政権がデジタル庁設置を加速する今、製造業も設計の3Dデジタルツインをしっかりと整備し、それを流通させ、活用することで、デジタル現場力を向上させていく必要がある。本稿が5G時代にDXを加速するヒントとなれば幸いである。 (次回へ続く

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Profile

鳥谷 浩志(とりや ひろし)

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量3D技術の「XVL」の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を3Dで実現することに奔走する。XVLは東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に「製造業の3Dテクノロジー活用戦略」「3次元ものづくり革新」「3Dデジタル現場力」「3Dデジタルドキュメント革新」などがある。


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