なぜ木を使うのか、IoTデバイスで目指す“穏やか”な技術との関わり:モノづくり×ベンチャー インタビュー(2/2 ページ)
「情報テクノロジーと人の佇まいが無為自然に調和した世界を実現する」をビジョンとし、自然素材のIoTデバイスに取り組み、新たな価値提供を目指すのがmui Labである。mui Labの共同創業者で、Software Architectの久保田拓也氏と、同社取締役CTOである佐藤宗彦氏に、同社を立ち上げるきっかけや製品のコンセプト、また今後の展望などについて話を聞いた。
ハードウェアスタートアップとしての苦労
―― その他で感じたモノづくりを進める上での苦労についても教えてください。
久保田氏 特に苦労したのがハードウェア生産と発送工程の管理です。「mui」は日本だけではなく世界中で発売したのですが、1件1件の出荷をするということが大変でした。また、私はソフトウェア技術者ですが、ソフトウェアではWebアプリケーションやモバイルアプリケーションなど、ランディングページを作って公開すれば終わりです。しかし、ハードウェアではそうはいかず、本当にやることが山のように出てきます。ハードウェアでは後でアップデートできないところがどうしても出てきてしまい、そこを事前に作り込んでおく必要があります。ハードウェアスタートアップとしてのそういう難しさはあったと感じています。
佐藤氏 mui Labでは、ハードウェア製品を作っているというより、生活者の体験や時間をデザインすることがメインの役割だと考えています。製品が置かれて、そこでどのような家族の会話が生まれるのか、どのような家族の記憶がそこで紡がれるのか、それ自体をデザインして設計して作っていくというようなところがあります。ハードウェアやソフトウェアはそのためのものだと捉えています。そのため、デザインや設計のプロセスが一番大変で、一番大事なところだとも考えています。
久保田氏 「生活者の体験をデザインする」ということでは、ローンチ直前で仕様を根底からやり直したということもありました。少人数のリソースで短期間でやらなければいけないというのがスタートアップの宿命ですが、それでも開発日程はぎりぎりでした。その中でどうするかを考えた場合に、サーバの細かい設定や立ち上げなどまでやるとどう考えても間に合いません。そこで、AWSのクラウドの利点を活用することでデジタル基盤についてはAWSをフル活用し、mui Labとしてやりたいところに集中した開発を進めることにし、何とか製品リリースを行うことができました。
「Calm Technology」を世界に広げる
―― 今後の展望についてはいかがでしょうか
佐藤氏 まず、われわれはデバイスを売ってはいますが、核となるのはそのインタラクションの設計とソフトウェアの設計です。今後はそれを広く展開していきたいと考えています。
その方法として、1つは同じハードウェアを使って別のアプリケーションにも対応するソフトウェアの実装をすることを検討しています。もう1つはソフトウェアの部分をプラットフォームとして展開することを考えています。今後、「Calm Technology」をより社会に広めていくために、家庭の外であっても、商業施設やオフィスなどさまざまな場所でのコミュニケーションと「穏やかな情報との関わり」を実現するプラットフォームを提供したいと考えています。
ハードウェア製品を何年おきに売り出していく、というような方針ではありません。やはり一番の価値は人々の体験にあり、それを実現する「デザイン」「設計」「ソフトウェア」が軸です。パートナーとなる企業とこの考え方やデザイン、ソフトウェアプラットフォームを実装していきたいと考えています。
久保田氏 弊社のような小さいスタートアップがハードウェアを何百万台と生産して世界中に出していくというのは時間がかかりすぎるなど現実的ではありません。われわれのコアバリューである「Calm Technology」をプラットフォームとして提供することで、われわれがよいと考えているものが世界中に広がっていくというのが成し遂げたいビジョンです。
筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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