製造業の将来像は3つの姿に、データの価値が高まる中でのモノづくりの在り方:スマートファクトリー
インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は2020年10月8日、「IVI公開シンポジウム2020-Autumn-」をオンライン開催した。その中で「IVIオピニオン」として、IVI 理事長で法政大学 教授の西岡靖之氏が「デジタル化とデータ化と価値経済の行方」をテーマに講演。データと価値の関係という根本的な問いかけから、製造業・モノづくりが進む方向性・可能性などについて紹介した。
インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は2020年10月8日、「IVI公開シンポジウム2020-Autumn-」をオンライン開催した。その中で「IVIオピニオン」として、IVI 理事長で法政大学 教授の西岡靖之氏が「デジタル化とデータ化と価値経済の行方」をテーマに講演。「データと価値の関係」という根本的な問いかけから、製造業が進む方向性や可能性などについて紹介した。
IVIは、IoT(モノのインターネット)時代におけるモノづくりとITの融合によって可能となる新たなモノづくりの姿を“緩やかな標準”というコンセプトをもとに実現することを目的とした団体である。日本機械学会 生産システム部門の「つながる工場」分科会が母体とし、2015年6月に設立された。
データの価値が生み出す「共有経済」
まず、西岡氏はデータと価値の関係など基本的な考え方について解説した。「データは情報の表現であり、伝達、解釈または処理に適するように形式化されている。そして、再度情報として解釈できるもので、最終的には情報として人が判断することによって価値につながるということが基本的に定義されている」と西岡氏は述べる。さらに「かつてデータは今ほど重視されていなかったが、複製にコストがかからず、コピーすればするほど価値はさらに大きくなるということから今あらためて注目され始めた」と西岡氏はデータについての考えを述べた。
また、データはビジネス取引上、モノでないため所有権が無く、西岡氏は「(私が調べた限り)しっかりとした理論がないというのが現状だと思う。データに関しては過去の経済の法則が通用しない」と指摘する。
こうしたデータを取り巻く環境が変化する中、第4次産業革命というキーワードで約5年前から、製造業およびそれを取り巻く世界で大きな変化(革命)が起こりつつある。今ではDX(デジタルトランスフォーメーション)という形で説明されることが多いが、経済理論でみると価値を比較できる「比較経済」、価値を交換できる「交換経済」とは別に、「共有経済」が広がっていると西岡氏は考えを示す。
「データやソフトウェアはコピーすれば誰でも使える(原価が0である)という特徴を持つ。そのため『共有』がポイントだと考え『共有経済』という言葉を付けた。データを誰と共有するのか、ソフトウェアは誰に使用許諾するのか、こうした権利関係が価値となる。そこに『参加する、しない』で、その利益を互いに共有したり、トータルの利益を増やしていったりということが生まれる。こうした価値観の中で、さまざまな共用体を生み出すのが、新しい形のシェアリングエコノミーだ」と述べている。
つまり、これまでのお金と交換するという単純なものから、サブスクリプション、シェアリング、コネクテッドいうキーワードでビジネスのルールそのものを考え直すパラダイムシフトが起こっているということを示しているという。
共有してもよいデータ、よくないデータ
デジタル技術について考えてみると、その力は現在の社会環境を大きく変化させているといえる。省力化や省人化など、ムダを抑制し労働生産性の向上を促進している。また、必要なものを必要な時に提供するリアルタイム化を実現し、さまざまな判断や対策を素早く取れるようになり「これは効率化以上の価値を生み出している」(西岡氏)という。
さらに、シミュレーション、デジタルツイン、AI(人工知能)による知識再生産など仮想化や、テレワーク、コネクテッドカーなどの「つながる化」にも大きく貢献する。こうした新しい価値を考えるときには必ずデジタルの力が存在する。一方で、負の側面も生み出している。個の尊厳とプライバシーの侵害や、フェイクニュースによる混乱、ビッグデータの寡占化などの他、富の集中や格差の拡大、サイバーテロなど経済の暴走や安全保障などにおいて、さまざまな問題を生み出している。
西岡氏は「デジタル化だけでは、社会の変革につながる真の意味でのDXは実現できない。デジタル化はDXで示される影響度の3分の1程度の重要性しか持っておらず、そこだけを見ていると本当の意味で重要なものを見落とすことになる。本当に重要なのは、これまで気付かなかったデータが、従来にないさまざまな形で使われるようになり、それがさまざまな仕組みを変える力になるということだ。現在はまだ、その力は発揮されていないかもしれないが、必ずそういう状況は生まれてくる。既にコロナ禍の中でもさまざまなところで現れ始めており、これらの気付きにより、広がってくるだろう」と指摘した。
さらに、データについては、現在「データをオープンにすべきか、クローズドにすべきか」という議論がある。そこで、データを基本的に共有して価値のあるものと、共有してはならないものなどに分類。「共有マテリアル型(共有)」「損害の最小型(共有)」などの5類型と「パブリック型データ」「ジャンル型データ」「コンテキスト型データ」の3階層に分けた。この内、モノづくりの世界のデータは「インセンティブ型(占有)」(ノウハウや特許、顧客情報など制度による公正な競争と個に対するインセンティブ)や「有限価値分譲型(限定共有)」(知っている人が増えると1人当たりの価値が下がる)に当たるという。
組織にある知識をデジタル化するのは、暗黙知なども含めて、非常に難しい問題となっている。IVIでは、これをデータにする方法を議論し、WG(ワーキンググループ)を通じてさまざまな取り組みを行ってきた。その中でデータを共有するための多くの課題が浮かび上がっているという。モノづくりにおけるデータの流通方法については3年前から検証しており、その中で、契約の問題や、それぞれの立場によりデータの意味が変わり通じない(辞書の問題)などの課題があることが分かってきた。これらを解決するためにIVIでは、製造業がデータを基に新しいビジネスモデルを展開するため「製造業オープン連携フレームワーク」という基本的な考え方を提案した。
将来の製造業は3つの姿に
こうした取り組みをベースに、データを使って製造業が今後どう変わっていくのかをIVIは30年後の未来工場として3つに分類する。それは、最終消費地に近い場所でモノづくりを行う「コンビニ型ファクトリー」、高度な製造技術や希少な製造技術などを集約することで効率化してスケールメリットを出した「シェアリングファクトリー」、強い中堅企業が要素技術に特化しネットワークを形成することで多様なニーズに対応する「コネクテッドファクトリー」である。「将来的に製造業が生き残っていくためにはこれらの3つの姿に大きく集約される」と西岡氏は語っている。
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