IoTによる人とモノの定量化や鋳造工程の品質定量化を実証、IVIのWG活動:スマートファクトリー
インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は2020年10月8日、「IVI公開シンポジウム2020-Autumn-」をオンライン開催した。その中で「2019年度業務シナリオWG(ワーキンググループ)優秀事例紹介」を実施し、最優秀賞1件、優秀賞3件、敢闘賞1件の活動内容を紹介した。
インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は2020年10月8日、「IVI公開シンポジウム2020-Autumn-」をオンライン開催した。その中で「2019年度業務シナリオWG(ワーキンググループ)優秀事例紹介」を実施し、2020年5月に発表した「IVIつながるものづくりアワード2020」の最優秀賞1件、優秀賞3件、敢闘賞1件の活動内容を紹介した。
IVIは、IoT時代におけるモノづくりとITの融合によって可能となる新たなモノづくりの姿を“緩やかな標準”というコンセプトをもとに実現することを目的とした団体である。日本機械学会 生産システム部門の「つながる工場」分科会が母体とし、2015年6月に設立された。
「IVIつながるものづくりアワード」は、2019年度に活動した18の業務シナリオWGの中から優秀な取り組みを表彰するというものだ。その中で最優秀賞はマツダなど数社が参加した「人・モノの実績可視化/分析と最適化−II(次世代IEの追求)」が受賞している。また、優秀賞は三菱電機などが参加した「素材製造ラインにおける品質向上/シリンダヘッド(鋳造)編」と、東芝などが参加した「セキュアデータ流通サービス:エッジAI実装で生産現場の知性化」、CKDなどが参加した「設備機の保守に関する情報を、見える化する」が受賞している。また、敢闘賞はニコンなどが取り組んだ「設計・製造間の連携効率化」が選ばれている。
IoTを活用した人とモノの定量化とIEとの融合
最優秀賞に選ばれた「人・モノの実績可視化/分析と最適化−II(次世代IEの追求)」はマツダ、パナソニック、トヨタ、いすゞなどの各企業から参加した10人のメンバーで行われた。
最近では生産工程の高度化や複雑化が進み、ストップウォッチレベルでの作業の定量化は困難となっていたが、IoT(モノのインターネット)技術の進化により、測定(ロスの定量化)が大幅に行いやすくなっている。最優秀賞に選ばれたWG活動では、IoTを活用することで人とモノの動きの定量化(自動収集)とIE(インダストリアルエンジニアリング)手法を活用したロス分析を融合し、属人化された作業から編成効率を最大化する標準作業の設計および定量化された動きのパターン化を行った。これにより、ロスのルール定義と可視化を目指した。
活動対象は、多数の企業で共通している物流職場のフォークリフト作業の改善である。業種を問わず、フォークリフトなどの物流機器を使っている現場は非常に多いが、これらの環境では情報取得用の仕組みも複雑なものは入れられない。WG活動では、さまざまな現場で安価に簡単に設置することを目指した。データの取得は、フォークリフト単体で行えるようにし、その機器を持ち回ることで大きな投資なしに活用できるようにしたという。
また、フォークリフトの動きを可視化(動線・荷重のデータ化)し、ゾーン作業内容を分析、最適レイアウトと最適編成などの検討を行った。これらを改善の着眼点として標準作業設計に織り込み、現場では現在3人態勢で行っている作業を2人で対応できるような改善に結び付けていく。
今回の実証実験では、人とモノの動きを定量化することにより、長い時間をかけて個別の環境を分析していたものが、短時間でかつ多数の人の知恵を含めて分析できることを明らかにした。これにより改善のPDCAを早く回すことが可能になるとみている。また、今後はフォークリフトにとどまらず、生産現場での人とロボットとの協調に関しても、発展可能だとしている。実証実験を行ったチームでは「引き続き次世代のIEの追求という活動を続けていきたい」(マツダ 吉岡新氏)と意欲を示していた。
鋳造工程の品質の定量データ化や周辺設備の見える化を実施
「素材製造ラインにおける品質向上/シリンダヘッド(鋳造)編」は、自動車エンジンのシリンダヘッド鋳造工場での品質向上をテーマにした活動である。現場の技量や経験に頼っていたものを、新たなセンシング技術を採用し、収拾したデータの分析を行うことで、新たな知見を見つけることを目指した。
実証実験の結果では、溶湯成分に着目して因果関係を調査し、従来は思いもよらなかった特定成分の含有量の違いが品質影響因子であることを特定し検証を行った。また、製品冷却用のプレート個体差が製造物の良否に偏りを生むことを分析により確認することができた点など、鋳造工程には科学的分析による「定量化」がさまざまな領域でまだ可能で、それが品質向上に有効であることを明らかにした。
「セキュアデータ流通サービス:エッジAI実装で生産現場の知能化」は、生産現場における安全なデータ流通の仕組みを検証した活動である。IoTやM2M、センサーやエッジコンピュータの高機能化、AIの実用化が進む中、製造現場でのさまざまなデータ活用が進められている。実証実験では、数秒から1秒以下の製造プロセスを対象とし、エッジコンピュータで収集したディープなデータを基に、インプロセス管理として機械による良否判定の仕組み作りや、工作機械センサーデータ国際標準化活動、CIOF(Connected Industries Open Framework)データ流通、緩やかにつながる環境などの構築を目指した。単にモデルを作るだけでなく、現場で動くモノづくり、さらにロットごとの傾向分析や予兆の発見にもつなげたとしている。
「設備機の保守に関する情報を、見える化する」の事例は、主要設備の周辺装置の保全を対象とした取り組みである。生産現場の「ドカ停」回避を考えたとき、主要装置でない周辺設備は、異常が発生しても人力による代用や応急処理でしのげることが多いため、日々のメンテナンスの関心事になっていない。これに着目し、今回の実証実験では工作機械内のサーボアンプのファン故障を対象とし、シンプルで手軽なセンサーを試しながら、オフラインの検証も合わせて行った。
また、敢闘賞に選ばれた「設計・製造間の連携効率化」は、試作部門における見積もり業務のスピードアップや納期・金額の正確性向上の課題に取り組んだものだ。TO-BEで描いたシステムに現場の知見も加えながら、3Dモデルからの加工時間(加工金額)算出、最適納期の算出を可能としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 乱立する製造IoT基盤は連携する時代に、IVIが製造データ連携フレームワーク披露
「つながる工場」実現に向け、製造業、製造機械メーカー、ITベンダーなどが参加するIndustrial Value Chain Initiative(IVI)は2019年3月14〜15日、都内で「IVI公開シンポジウム2019-Spring-」を開催。その中で、DMG森精機、日立製作所、ファナック、三菱電機とともに、共同開発してきた、プラットフォーム間で製造データを自由に流通させられるフレームワーク「コネクテッドインダストリーズオープンフレームワーク(CIOF)」の実証成果を披露した。 - スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。 - エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。 - 工場自動化のホワイトスペースを狙え、主戦場は「搬送」と「検査」か
労働力不足が加速する中、人手がかかる作業を低減し省力化を目的とした「自動化」への関心が高まっている。製造現場では以前から「自動化」が進んでいるが、2019年は従来の空白地域の自動化が大きく加速する見込みだ。具体的には「搬送」と「検査」の自動化が広がる。 - 見えてきたスマート工場化の正解例、少しだけ(そもそも編)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第28回となる今回は、スマート工場化において見えてきた正解例について前提となる話を少しだけまとめてみます。 - スマートファクトリーはエッジリッチが鮮明化、カギは「意味あるデータ」
2017年はスマートファクトリー化への取り組みが大きく加速し、実導入レベルでの動きが大きく広がった1年となった。現実的な運用と成果を考えた際にあらためて注目されたのが「エッジリッチ」「エッジヘビー」の重要性である。2018年はAIを含めたエッジ領域の強化がさらに進む見込みだ。