くら寿司はなぜ半年で非接触型サービスを導入できたのか:イノベーションのレシピ(2/2 ページ)
回転ずしチェーンを展開するくら寿司は、池袋サンシャイン60通り店に、入店から退店まで顧客が店員と対面することなく、すしの提供をはじめとするサービス提供が可能となる「非接触型サービス」を導入した。このような非接触型サービスの導入は「大手外食チェーンで初」(同社)だという。
紫外線殺菌システムも試験導入
今回の非接触型サービスの最大の特徴は、既存店舗への導入が容易な点にある。自動受付案内機に追加するセンサーはUSBケーブルで接続するだけでよく、座席でのスマートフォンによる注文システムもソフトウェアの変更だけで実現している。
くら寿司は全国で462店舗を展開しているが、これらのうち、自動受付案内機を用いた座席への自動案内は322店舗、AIカメラですし皿を自動カウントするセルフチェックは168店舗に導入している。これらのシステムが導入されていれば、休店日などに合わせて非接触型サービスを容易に導入できる。
この非接触型サービスとの組み合わせで効果を発揮しているのが、ノロウイルスの流行に対応すべく2011年11月から導入を開始した独自開発のすしカバー「鮮度くん」だ。すしカバーに直接触れることなく、皿を少し持ち上げるだけでカバーから取り出せるため「これもカバーに触らずに済む非接触のタッチレスといえる」(広報担当者)としている。
また、鮮度くんの上部カバーが紫外線を通さないポリカーボネート製であることを活用し、コンベヤーのバックヤード側でカバー表面を殺菌する紫外線殺菌システムも、2020年7月から試験導入を始めている(池袋サンシャイン60通り店など5店舗で実施)。
さらにくら寿司は、新規出店する店舗についても非接触型サービスを全面展開していく方針である。2020年11月17日にオープン予定の東村山店(東京都東村山市)は、非接触型サービスを標準装備するだけでなく、すし店ではテーブル上に置いてあるのが一般的なしょうゆなどの調味料をテーブル内に格納してスッキリさせるなどしており、今後のくら寿司のスタンダードとなる「スマートくらレストラン」の1号店に位置付けられている。
この調味料をテーブル内に格納する構造は、2020年1月にオープンしたグローバル旗艦店の「浅草ROX店」で採用したものが横展開されている。
COVID-19の国内における感染拡大が問題になり、飲食店の営業に大きな影響を与えるようになったのは2020年春からだ。くら寿司は、それから約半年という短期間で非接触型サービスを導入までこぎつけたが、これは自動受付案内機やセルフチェック、すしカバーなどそれまでに積み上げてきたさまざまな取り組みがあって初めて実現できている。
くら寿司は、今回発表した非接触型サービスについて、2021年末をめどに全店舗への導入を目指すとしている。
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