新型コロナで進む小売業のDX「今後2年の取り組みが10年後の業界の姿を決める」:スマートリテール(1/2 ページ)
リテールAI研究会は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流通、小売業界にもたらす影響などをテーマとしたセミナーを開催した。今後業界全体でID-POSなどのデータ共有を行うための体制づくりを進めていくことが重要になる可能性がある。
リテールAI研究会は2020年6月2日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流通、小売業界にもたらす影響や今後望まれるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みなどをテーマとしたセミナーを開催した。当日の講演から、経営戦略論を専門とする筑波大学大学院ビジネス科学研究科 教授の立本博文氏による基調講演の内容を抜粋して紹介する。
COVID-19が小売業界に与えた経済的影響の度合いについて、立本氏は株価の変動率を示すボラティリティを参照して「ボラティリティは経済の不確実性を示す指標の1つと見なされている。COVID-19の感染拡大後、ボラティリティは国内でバブルがはじけた時点と同程度の値を示しており、そのくらい経済的な衝撃が大きいということが伺える」と説明した。
ただ立本氏は、あらゆる業種が画一的にマイナスの影響を受けているわけではないとも指摘した。「クレジットカードの利用額を分析してみると、居酒屋やファミレス、宿泊、航空旅客での利用額は前年対比で大きな低下を見せている。一方で、コンビニやスーパーなど人々のライフラインに近い業種では利用額が伸長しており、ひとくくりにして語ることは難しい」(立本氏)。
また立本氏は今後の経済動向を予測する資料として、前年の売り上げデータが役に立たないものになっていることも指摘した。「COVID-19の感染拡大後、消費者の購買行動はいわゆる『マスクパニック』に始まり、買いだめなどの問題を生んだ『災害備蓄』、そしてその後の『自粛期間』と移り変わっている。その中で小売店を訪れた客数を2019年対比でみてみると、2020年は『災害備蓄』の期間に大きく伸長したが、その後『自粛期間』はむしろ落ち着いている。2019年とは異なる消費者行動の傾向が生じており、この意味で未来を見通す基になる前年対比の数字が使えない」(立本氏)。
また商品の需要も品目によって異なる上、COVID-19を巡る社会的状況の変化次第でこうした需要は移り変わりやすい。さらに関東地方や九州地方など、地域によっても需要増減にばらつきが生じており、消費者需要を正確に見通すことが難しくなりつつある。
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