中小企業を取り巻くリスクと新型コロナウイルス感染症の影響:2020年版中小企業白書を読み解く(1)(6/6 ページ)
中小企業の現状を示す「2020年版中小企業白書」だが、本連載ではこの中小企業白書を基に、中小製造業も含めた中小企業にとっての「付加価値」の創出の重要性や具体的な取り組みについて3回に分けて考察する。第1回は中小企業の現状や、新型コロナウイルス感染症が中小企業にもたらした影響について確認する。
国内消費の減少による業況の悪化
新型コロナウイルス感染症の影響により、インバウンドをはじめとする国内消費が大幅に減少。小売業では一部で買いだめが生じているものの、総じて、業況は悪化している。これは、景況調査における業況判断DIの推移を産業別に見た際に、小売業を除き足元の2020年1-3月期が低下していることからも分かる(図6、2ページ目に掲載)。製造業について業況判断DIの推移を業種別に見てみると、足元の2020年1-3月期は「パルプ・紙・紙加工品」で特に大きく低下している(図22)。
日本商工会議所が実施した商工会議所LOBO調査における業況DIの推移を産業別に見ても、2020年2月以降大幅に景況感が悪化していること、また先行き見通しも更に悪いことが分かる(図23)。
加えて有効求人倍率についても、2020年1月に大きく低下しているが、2月はわずかな低下にとどまっており、雇用への影響も懸念される(図24)。
顕在化する新型コロナウイルスの影響と今後の懸念
東京商工リサーチの「第2回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」をみると、2020年3月時点の新型コロナウイルスによる企業活動への影響の有無については、大企業に比べると割合がやや低いものの、「現時点ですでに影響が出ている」と回答した中小企業が5割以上も存在する(図25)。
その内訳については「マスクや消毒薬など衛生用品が確保できない」と回答した企業が51.1%と最も多く、次いで「売上(来店者)が減少」「イベント、展示会の延期・中止」などが多く、既に新型コロナウイルスの影響が顕在化しているといえる(図26)。
2020年3月時点における新型コロナウイルスによる今後の懸念については、「感染拡大」と回答した企業が74.3%と最も多く、感染拡大を抑えることが企業にとっても重要であることが分かる(図27)。今後も感染症の影響による厳しい状況が続くと見込まれる中、中小企業・小規模事業者は多様な課題に対処することが求められている状況だ。
感染症の影響による厳しい状況が続くことに加え、将来的な人口の減少も見込まれるなど、日本の中小企業を取り巻く環境はより厳しいものになっている。このような中で日本経済を成長・発展させていくためには、企業が生み出す付加価値自体を増大させていくことが必要となると中小企業白書2020は指摘する。
これを論じるべく中小企業白書2020は中小企業・小規模事業者を期待される役割や機能に着目し4つの類型に分類し、その実態を明らかにしている。その詳細については、第2回で詳しく見ていきたい。
筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 新型コロナ影響が2カ月で拡大、在宅勤務やコミュニケーションに課題も
MONOist、EE Times Japan、EDN Japanのアイティメディア製造業向け3媒体は「新型コロナウイルス感染症のモノづくりへの影響に関するアンケート調査」を実施した。調査は2020年3月に続いて2度目で、欧米での感染拡大を受けた市場の混乱、在宅勤務の拡大などによる業務の変化などの影響が表れた。 - 中小製造業で次世代経営者が抱える問題と「継ぎたくない理由」
中小企業の現状を示す「2019年版中小企業白書」が公開された。本連載では、中小製造業に求められる労働生産性向上をテーマとし、中小製造業の人手不足や世代交代などの現状、デジタル化やグローバル化などの外的状況などを踏まえて、4回に分けて紹介している。第4回は、中小企業における世代交代の実態を主に「次世代の経営者」の状況を中心にお伝えする。 - 深刻化する中小製造業の人手不足――労働力人口の減少と大企業志向の高まり
中小企業の現状を示す「2019年版中小企業白書」が公開された。本連載では、中小製造業に求められる労働生産性向上をテーマとし、中小製造業の人手不足や世代交代などの現状、デジタル化やグローバル化などの外的状況などを踏まえて、同白書の内容を4回に分けて紹介する。第1回は、中小企業の人手不足の現状を明らかにするとともに、人手不足の状況下での雇用の在り方について解説する。 - 中小製造業における業務プロセス改善の効果と成功のカギ
中小企業の現状を示す「2018年版中小企業白書」が公開された。本連載では「中小製造業の生産性革命は、深刻化する人手不足の突破口になり得るか」をテーマとし、中小製造業の労働生産性向上に向けた取り組みを3回に分けて紹介する。第1回は現在の状況と業務プロセス改善への取り組みについて解説する。 - 中小製造業のIoT活用は難しくない!? 先行する3社はなぜ実現できたのか
「AWS Summit Tokyo 2018」において、IoTやAIの活用で先進的な取り組みを進めている3社の中小製造業が登壇する講演が行われた。武州工業、旭鉄工、IBUKIが自社の取り組みを紹介するとともに、どのようにすればIoT/AI活用を進められるかについて意見を交わした。 - オープンイノベーションとはいうけれど、大手と組んで秘密は守れる?
オープンイノベーションやコラボレーションなど、社外の力を活用したモノづくりが、かつてないほど広がりを見せています。中小製造業やモノづくりベンチャーでも「大手製造業と手を組む」ことは身近になってきました。でも、ちょっと待ってください。その取引は本当に安全ですか。本連載では「正しい秘密保持契約(NDA)の結び方」を解説していきます。