X線から高エネルギーのガンマ線まで、1台で同時撮影するカメラを開発:医療機器ニュース
早稲田大学は、低エネルギーのX線、ガンマ線から高エネルギーのガンマ線まで、1台で同時にイメージングできる小型カメラ「ハイブリッド・コンプトンカメラ」を開発した。
早稲田大学は2020年8月27日、低エネルギーのX線、ガンマ線から高エネルギーのガンマ線まで、1台で同時にイメージングできる小型カメラ「ハイブリッド・コンプトンカメラ(Hybrid CC)」を開発したと発表した。同大学理工学術院 教授の片岡淳氏らの研究チームと、大阪大学との共同研究による成果となる。
研究では、コンプトン散乱と呼ばれる反応を正確に解くことでガンマ線の到来方向を決める、コンプトンカメラの原理を応用している。コンプトンカメラは、散乱体と吸収体にピッチが細かいアレイ検出器を用いるが、エネルギーの低いガンマ線は散乱体で止まり、吸収体まで届かないという課題があった。
Hybrid CCは、散乱体アレイの中心にアクティブ・ピンホールと名付けた小さな穴を開けることで、低エネルギーのX線、ガンマ線が吸収体まで到達できるようにした。低エネルギーのX線、ガンマ線は、ピンホールを通ったものだけが吸収体に到達するため、吸収体のみで捉えるピンホール・モードで撮影。高エネルギーのガンマ線は、散乱体と吸収体の両方が反応するコンプトン・モードで撮影する。
実証実験では、60keVガンマ線(241Am)と662keVガンマ線の点線源(137Cs)の同時撮影に成功した。
また、核医学治療薬の211At(アスタチン)を投与したマウスで、体内に集積した薬剤の可視化を試みた。ピンホール・モードによる79keV X線撮影では、マウスの胃、膀胱、甲状腺に211Atが集積している様子が確認できた。一方、コンプトン・モードの570keVガンマ線撮影では集積状況は曖昧で、X線に特化したイメージングが有効であることが実証できた。
医療分野ではさまざまな放射性薬剤から生じるX線、ガンマ線を可視化する装置が医療診断に利用されている。しかし、それぞれの装置は得意とするエネルギーが異なり、目的や用途で使い分けが必要だった。
研究チームは今後、装置を大型化し、PETのように被写体を囲む構造を構築する予定だ。また、人体の薬物伝達の可視化という医療分野に加え、宇宙観測などの応用も期待される。
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