1万℃の高熱から貴重なサンプルを守れ!〜再突入カプセルの仕組み【前編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(17)(4/4 ページ)
いよいよ、小惑星探査機「はやぶさ2」が帰ってくる。2回のタッチダウンで取得したサンプルを地球に送り届ける最後の関門となるのが地球大気圏への再突入だ。そのために使われる「再突入カプセル」とは、どのような装置なのだろうか。
アブレータが熱に耐える仕組み
こんなに過酷な高熱環境になると、もう金属は使えない。どんな耐熱合金であっても溶けて強度を失ってしまう。そこで、はやぶさシリーズのカプセルのヒートシールドには、強度と軽量性に優れるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)をアブレータとして採用している。
CFRPであってもやはり溶けてしまうのだが、アブレータはこの「溶ける」ということを積極的に利用する。氷が水になるのも、水が水蒸気になるのも吸熱反応である。アブレータの表面が熱分解でガス化するときも熱を吸収するので、冷却効果が期待できるわけだ。
さらに表面から熱分解ガスを出すことで、外部の超高温気体と直接接触するのを防ぐ効果もある。こういった耐熱機能により、気温が1万℃であっても、アブレータ表面の温度は最高3000℃程度まで抑えられる見込みだ。
降下中に「溶ける」といわれるとちょっと不安になってしまうが、空力加熱を受ける時間は限られているので、そこは厚さでカバーすれば大丈夫だ。はやぶさ2のヒートシールドは、熱的に最も厳しい前面で約3cm、そこまでの熱は受けない背面で約1cmの厚さになっている。
樹脂が溶けたあとのCFRPは炭化層を形成するが、強度は高いままなので、カプセルの形状を維持できるというメリットがある。ただ、ヒートシールドは耐熱性と断熱性に優れるものの、そもそも小型で熱容量が小さく、最終的には表面の温度が内側まで伝わってしまう。そのため途中でヒートシールドを分離し、熱の伝わりを防いでいる。
はやぶさ2のカプセルの相違点は?
はやぶさ2は開発期間が短かったということもあり、再突入カプセルの設計はほぼ初号機を踏襲している。しかしその中でも、いくつかの改良が行われており、特に注目したいのが、開傘トリガーの冗長化と、再突入飛行計測モジュール「REMM」の追加である。これについては、次回の後編で詳しく見ていくことにしたい。
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