「HAKUTO-R」で月面着陸に挑むランダーの最終デザイン公開、シチズン独自素材を用いた試作品も:宇宙開発
月面開発ベンチャーのispaceは、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のMission1で、月面着陸ミッションに挑戦するランダー(月着陸船)の最終デザインを公開した。また、コーポレートパートナーであるシチズン時計は、ランダーの着陸脚の一部パーツに採用予定である独自素材「スーパーチタニウム」を用いた試作品が完成したことを発表した。
月面開発ベンチャーのispaceは2020年7月30日、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のMission1で、月面着陸ミッションに挑戦するランダー(月着陸船)の最終デザインを公開した。
最終デザインはコンパクト・低重心、全固体電池などを月面へ
最終デザインのランダーは、幅約2.6m、高さ約2.3m(着陸脚を広げた状態)、重さ約340kg(空虚質量)と、2018年9月に発表したデザインと比較し、コンパクトかつ低重心化を実現。月への航行ルートを低エネルギー遷移軌道としたことで、推進剤の消費量を最小限に抑え、燃料タンクの小型化に成功した。
ランダーの上部には、約30kgの重さのペイロード(観測/実験機器などの荷物)の搭載が可能。HAKUTO-Rのコーポレートパートナーである日本特殊陶業の全固体電池など、科学探査や実証試験を目的とした機器を月面に運ぶ計画で、現在、残り数kgの最終積載枠の調整を行っているところだという。また、HAKUTOのクラウドファンディング支援者の氏名を刻印したパネルも一緒に月面まで運ばれる計画だ。
月までの道のりを自力で航行するランダーは、振動や温度、高い放射線量といった過酷な宇宙環境に耐え、月面着陸ミッションを遂行しなければならない。さらに、地球や宇宙空間、月を撮像するためのカメラ、航行中の姿勢制御のための装置、位置情報を把握するためのセンサー類、月面着陸時の誘導制御や衝撃吸収機構など、安全な航行および着陸に必要なさまざまなテクノロジーが組み込まれている。
また、既に契約を締結している米国スペースX(SpaceX:Space Exploration Technologies)の再使用型ロケット「Falcon9」、米国チャールズ・スターク・ドレイパー研究所の誘導/航法/制御システムに加え、月面着陸ミッションの成功に欠かせない推進系として、ドイツのアリアングループ(ArianeGroup)のスラスタを採用したという。
今後は、2020年9月までにランダーの詳細設計レビューを終え、熱構造モデルの製作および試験に取り組むと同時に、地上からのオペレーションの要となるミッションコントロールセンターの設計、準備を進め、より具体的な運用計画を構築するとしている。そして、2021年2月には実際に月面着陸を目指すランダーの部品の組み立てを開始し、環境試験を実施した後に、打ち上げ地である米国へ輸送する計画。打ち上げ時期は、2022年2月で調整中だ(※注1)。
※注1:当初、HAKUTO-RではMission1の打ち上げを2021年に予定していたが、一部の部品でミッション運用にかかわるリスクが確認されたことを受け、部品の製造と試験、解析のために、打ち上げ予定時期を2022年に変更した。
ランダーの脚に採用予定のシチズン独自素材「スーパーチタニウム」
さらに同日、HAKUTO-Rのコーポレートパートナーであるシチズン時計(以下、シチズン)は、ランダーの着陸脚の一部パーツに採用予定である独自素材「スーパーチタニウム」を用いた試作品(回転軸および連結部分の試作部品)が完成したことを発表した。
スーパーチタニウムは、シチズン独自のチタニウム加工技術と表面硬化技術「デュラテクト」を組み合わせた素材。傷に強く、軽量、耐金属アレルギー性に優れ、サビにくいといった特性を備え、腕時計の素材として採用されている。
今回、スーパーチタニウムで試作したのは、ランダーの着陸脚の回転軸および連結部分のパーツだ。月面着陸時の衝撃に耐えるために、ランダーの着陸脚は、軽量かつ高い強度が必要である他、回転軸および連結部分は可動部であるため、硬さに加えて滑らかさも求められる。
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