自由表面によって気体と液体の界面を捉える:初心者のための流体解析入門(14)(2/2 ページ)
流体解析をテーマに、入門者や初学者でも分かりやすくをモットーに、その基礎を詳しく解説する連載。今回は気体と液体、性質の異なる2つの流体を同じ解析空間内で扱うことをテーマに、「自由表面」について取り上げる。
自由表面を使って解析をしてみる
ここからは、自由表面を使って解析をしてみます。題材として、以下のような橋脚のようなモデルを用意しました(図4)。時間の関係で解析空間は比較的小さくとっています(図5)。
初期状態の面は、橋脚の下から3m程度にしています。この面から下が初期状態での水ということになります。条件としては、マイナスのX方向からプラスのX方向に毎秒3mで水が流れていることを仮定します。また、空気については、秒速3mの風が一定で吹いているということを仮定します。自由表面を使った解析では、時刻歴の状況を追い掛けるために非定常で問題を解くことが多いと思いますが、今回は空気や水の流入速度を一定にし、他に時間に依存する条件もないため、定常解析で行うことにしました。
ということで、解析結果を見てみたいと思います。
まず、肝心の自由表面の状態です。なお、図6では自由表面とともに、液相率が1.0(つまり水)の部分もボリュームレンダリングにて自由表面と同じ色で示しているので、水面とそこから下の水中と空気の部分に色分けしています。実は、計算が完全に収束し切っていなかったのですが、おおよその傾向を見ることができました。
次に、橋脚にかかる圧力です(図7)。
図7は、自由表面と橋脚にかかる圧力を重ねて表示したものです。水面から下で上流側の面に相対的に大きな圧力が発生していることが分かります。もちろん、この傾向自体は想定通りですが、シミュレーションによって水量や水面の高さ、あるいは流速の変動などのさまざまなパラメータを変動させることで、「豪雨によって水量が増した河川における、橋脚にかかる圧力」を確認することができます。
これらの圧力を、ざっくりとでも構造解析の境界条件としてフィードしてやれば、橋脚の強度解析も可能です。また、流体と構造のソフト間で連携をとることができれば、流体と構造の「連成解析」も可能となります。
さて次回は、この結果を生かして連成解析について取り上げたいと思います。お楽しみに! (次回に続く)
Profile
水野 操(みずの みさお)
1967年生まれ。mfabrica合同会社 社長。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。3D-GAN理事。外資系大手PLMベンダーやコンサルティングファームにて3次元CADやCAE、エンタープライズPDMの導入に携わった他、プロダクトマーケティングやビジネスデベロップメントに従事。2004年11月にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、オリジナルブランドの製品を展開。2016年に新たにmfabrica合同会社を設立し、3D CADやCAE、3Dプリンタ関連事業、製品開発、新規事業支援のサービスを積極的に推進している。著書に著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)などがある。
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