産業用5Gを推進する「5G-ACIA」、製造業ではどう生かす?:産業用ネットワーク技術解説(2/2 ページ)
世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ」の主催者であるドイツメッセは2020年7月14〜15日に初のデジタルイベント「ハノーバーメッセDigital Days」を開催した。本稿では、キーノートスピーチの1つに登壇した5G-ACIA 議長のアンドレアス・ミュラー(Dr. Andreas Mueller)氏による「5G for the Industrial IoT(産業用IoTのための5G)」の内容を紹介する。
ユースケースから見る産業用5Gに求められるもの
例えば、実際のユースケースとして想定されているものの1つに、工場内の自律搬送などで用いるAGV(無人搬送車)を5Gで運用することが挙げられる。実際の使用を考えた場合、工場内で5Gネットワークが確実にカバーでき、さらに通信品質も安定化されている必要がある。また、「URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)」により、トラッキングやナビゲーションを行う必要がある他、Over-the-airでバージョンアップや情報更新などを行うようなことも求められる。
工場内で使用するワイヤレスセンサーを5Gで結ぶ用途なども想定されている。この場合、設置場所によってはセンサーそのものの耐環境性に加え、通信についても厳しい環境での安定通信が求められる場合がある。一方で、導入の負担を低減するために、簡単で低価格で導入できるものが望ましい。さらに工場内の古い機械にも設置可能なレトロフィット性が求められる。
その他、5Gの利用により、作業員の作業指示を支援するAR(拡張現実)やVR(仮想現実)との組み合わせや、TSN(Time Sensitive Networking)と組み合わせた「TSN over 5G」なども期待されているという。
これらの用途を含め、産業用5Gの活用に求められるものとしてミュラー氏はポイントを挙げる。「産業用5Gには、産業用グレードのサービス品質が求められる他、差別化されたサービス品質、TSN over 5G、ローカル5Gなどが求められている。特にローカル5Gは大きな特徴だ」と語る。
「ローカル5G」は通信キャリアが展開する公衆5Gと違い、通信キャリア以外の事業者が独自の基地局を設置して5Gを活用するというものだ。独自回線であるために、工場内で安定した無線通信が活用できる他、工場内の機密情報などを外部に出す必要がなくなり、セキュリティ面などからも期待されている。
今後の課題としては「セキュリティ面でどういう形が最適かというのは検討課題だ」とミュラー氏は語る。「スマート工場化の中でOT側ではIEC62433をベースとし、ゾーニングなどにより、安全を確保する形が採用されている。一方で、5GではSIMカードやネットワークスライシングなどによりセキュリティを確保する。これらをどう組み合わせていくのか、どこに5Gコンポーネントを置くべきなのかは、効率性や拡張性などと合わせて考えていく必要がある」(ミュラー氏)としている。
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