エンジニアのミッションは依頼された業務を正確に遂行することだけなのか:VUCA時代のエンジニアに求められるコンサルティング力(2)
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第2回は、コンサルティング力の前に、まずエンジニアという職業の存在意義について論じる。
これからのエンジニアに求められるのはコンサルティング力である──。そんな話を前回しました。その具体的な内容に踏み込む前に、エンジニアという職業の存在意義について、私の考えを述べておきたいと思います。
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なぜ派遣エンジニアという働き方を選択したのか
私がエンジニアという職業を選んだのは、「世の中にないものをつくりだして、多くの人たちを幸せにしたい」と考えたからです。大学時代、私は青色LEDの発明でノーベル物理学賞に選ばれた赤崎勇先生と天野浩先生の研究室に属し、お二人の薫陶を深く受けました。青色LEDはまさしく「世の中にないもの」であり、その発明によっていわゆる光の三原色がそろい、LEDによってあらゆる色を表現することが可能になったのです。
そして大学卒業後、モノづくりの現場で自分の技術力によって「世の中にないもの」をつくり出したいと考え、大手メーカーに就職しました。しかし、程なくして、その環境はエンジニアにとって必ずしもハッピーな環境ではないのではと感じるようになりました。そのきっかけは、大きな組織では往々にして、エンジニアであるよりも「サラリーマン」であることが優先されてしまう現実に直面したからです。純粋なエンジニアとしての技術力ではなく、組織内における立ち居振る舞いや活動が評価される。もちろん、全ての企業がそうではありませんが、当時の私はそのように感じました。そのような環境に私は疑問を抱くようになり、自分の技術や能力が公平に評価される働き方であると感じた派遣エンジニアという働き方を選択しました。
私の根本にある思いはその頃から変わっていません。まだ世の中にないものをつくり出し、社会をよりよいものにし、人々の生活を幸せにする。その役割をエンジニアが十分に果たすことができる環境をつくりたいというのが、私の一貫したモチベーションです。しかし、エンジニアがそのような役割を果たし、長く活躍し続けるためには、高い技術力に加えてコンサルティング力が必要になってきています。エンジニアに必要なコンサルティング力とは簡単に言えば、「現場で生じている不具合や潜在的な課題を発見し、それを解決する力」のことです。
しかし、これには異議がある方もいると思います。エンジニアのミッションは、依頼された業務を正確に遂行し、期日通りに納品することである。問題の発見や解決はエンジニアの仕事ではないのではないか──。そんな反論です。私たちが、リーマンショック後にエンジニアのコンサルティング力に着目した際、「このようなアプローチは、経営者や企業の上層部から求められているのだろうか」という懐疑的な意見もありました。確かに現場の管理職の方には、「エンジニアは案件に沿って業務を行えばいい」という方もいらっしゃいました。しかし、経営層のほとんどは、「問題があるなら、ぜひ問題解決への提案をしてほしい」という反応でした。つまり、コンサルティング力という付加価値を認めてくださったわけです。
私たちは、企業が抱える課題の多くがモノづくりのプロセス、すなわちバリューチェーンにあることを感じていました。これは、派遣エンジニアという外部の視点を持ち、現場の業務に従事しているからこそ見つけられる課題です。その課題を発見し、イノベーティブに解決していくスキルを自社のエンジニアたちに身に付けてもらうことに、私たちは時間をかけて取り組みました。
コンサルティング力を身に付けることは、個々のエンジニアのスキルアップに間違いなくつながります。例えば、新しい技術に向かい合ったとき、それまでの経験と書物から得た知識だけがある場合と、問題解決の体系的手法がある場合とでは、対応力と順応スピードが圧倒的に異なります。しかもそのスキルは、正社員であろうが派遣社員であろうがフリーランサーであろうが変わらず一生涯活用できる“ポータブルスキル”なのです。人生100年時代といわれる今、エンジニアとして長く活躍するうえで必ず必要となるスキルだと感じています。
それでは次回から、いよいよそのコンサルティング力の具体的な内容に踏み込んでいくことにします。
筆者プロフィール
株式会社VSN 太田 剛
大手メーカーへ新卒入社し、エンジニアとして勤務後、2005年にVSNへ中途入社。エンジン、トランスミッション、エアーバッグ、カーオディオ、ブレーキ、メーターなどの頭脳部分となる車載用マクロコンピュータの開発に従事後、エンジニア全体の組織の管理職としてエンジニアの組織化を推進。
現在は、VIコンサルティングオフィスの室長として、コンサルティングサービスを促進するとともに、取引先企業の経営層に対する戦略コンサルティングサービスを担当する他、問題解決の育成プログラムの構築から実施を行う。
株式会社VSN http://www.vsn.co.jp/
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