欧州の新車生産は感染対策を最重視で再開、対策マニュアル公開の企業も:製造マネジメントニュース
欧州の自動車メーカーやサプライヤーが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で止まっていた工場の再開に向けて、動き出した。
欧州の自動車メーカーやサプライヤーが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で止まっていた工場の再開に向けて、動き出した。
アウディは今後数週間で欧州の生産拠点の稼働を徐々に再開すると2020年4月17日(現地時間)に発表。既に稼働を再開したハンガリー・ジェール工場でのエンジン生産は、徐々に生産量が増え始めているという。また、国内全域で封鎖措置を行ったイタリアに生産拠点を持つアルカンターラも、同年4月14日に稼働再開を決定した。フォルクスワーゲン(VW)も4月20日週からドイツとスロバキアの乗用車生産拠点で生産を再開し、4月27日週からは欧州のその他地域や米国での稼働再開を計画している。
各社の発表に共通しているのは「従業員を保護する感染予防策を最優先する」という点だ。VWは、生産台数よりも感染予防策やそのプロセスが確実に実行されていることを重視する。また、VWやアウディでは労使協議会(the works council)も参加し、感染対策が十分かどうか、感染対策を緩和できるかどうかを判断する。経営側は労使協議会との合意の上で生産を回復させていく。
感染症対策を労使で決定、社内のマニュアルを公開する企業も
アウディは感染症対策として、徹底した衛生管理や人との距離に関するルール、接触を回避するシフト変更、1.5mの距離を保つことが難しい場所での口と鼻の保護といった行動の実施に加えて、組み立てラインにプラスチック製のシートによるバリアを設けた。2人の従業員が近距離で、同時に向かい合うなどして作業する場面に向けた対策だ。ドイツの公衆衛生研究所であるロベルト・コッホ研究所のガイドラインや、各国の保健当局の規制も順守する。
製造部門やグループのマネジャーは、労働安全やヘルスケア、産業工学、労使協議会のメンバーとともに個々の職場を調査、分析する。それを踏まえて改善の提案書を作成し、関係者全員が同意することで、その工場を「新型コロナウイルス感染症の対策済み」とみなすという。グループスペースや工場のゲート、駐車スペース、工場内の人の出入り、ケータリングや食堂なども調査し、対策を施す。従業員に対しては対策の内容が書面で通知する他、ラインマネジャーからの指示、社内のオンラインメディアや工場内の告知を通じて、定期的に新しい情報を届ける。
こうした対策に基づき、生産は4月末以降に順次拡大される予定だとしている。また、サプライチェーンや生産、物流プロセスが、VWグループや国際的に事業展開するサプライヤーと密接に関連するため、生産再開は欧州全体で足並みをそろえる。
アルカンターラは、18稼働日にわたってイタリア・ウンブリア州の工場を閉鎖。法律上義務付けられた対策や、独自に追加した新型コロナウイルス感染症対策を導入した上で、稼働再開を決めた。具体的には、マスクや手袋、ゴーグルの毎日の配布と業務中のソーシャルディスタンスの順守、定期的な従業員の体温測定、複数人が触る設備への衛生対策などを実施する。
欧州自動車部品工業会(CLEPA)では、サプライヤー各社が推進する感染予防策を広く共有していく考えだ。この一環で、欧州に複数のテクニカルセンターと生産拠点を持つ米国のApitv(2017年にデルファイのパワートレインシステム事業を分離して設立)が自社の「セーフスタートプロトコル」を紹介している。マネジメント層に向けた事業活動に関するチェックリストや、感染拡大の深刻度の目安や必要な装備、清掃や消毒に関する手順、社内コミュニケーションやトレーニングに関する知見を随時更新しながら、社外にも公開する。
厳しい欧州の新車市場、生産だけでなく販売も回復を
EUの新車市場は、2020年1〜3月の乗用車新規登録台数が前年同期比で25.6%減の248万855台、3月単月では同55.1%減の56万7308台となるなど、厳しい状況を示している。国別に見ると、3月単月ではイタリアが前年同期比85.4%減、フランスが同72.2%減、スペインが同69.3%減、ドイツが同37.7%減となった。
欧州自動車工業会(ACEA)は、欧州の自動車産業全体の再始動に向けて4つの指針が重要だと指摘する。1つは、新型コロナウイルス感染症の収束後、迅速に、全ての国のサプライチェーン全体で、自動車メーカーとサプライヤーの双方が同時に稼働を再開することだ。健康保護が最優先事項だとし、生産再開にあたっては安全衛生規則を明確にすべきだとしている。
2つ目は、販売施策だ。クリーンな道路交通とモビリティが全ての人に手頃な価格で提供されることが重要だが、多くの消費者や交通事業者は新車の購入が難しいと見込む。最新の自動車技術に対する需要喚起には、全ての車両カテゴリーで買い替えスキームが必要になるとしている。販売と関連して、3つ目には型式認証と新車登録プロセスの迅速化を当局に要請することを挙げた。型式認証や新車登録は新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて滞っていた。さらに、4つ目として、エコカーへの買い替えを促進するため、充電インフラや燃料インフラへの投資を加速すべきだと指摘した。
関連記事
- VWが乗用車工場を順次再開、従業員の健康保護で100項目の対策も
Volkswagen(VW)は2020年4月15日(現地時間)、乗用車ブランドの生産拠点の稼働を順次再開すると発表した。 - IHIといすゞ、村田製作所の工場従業員が新型コロナに感染、操業停止が相次ぐ
従業員の新型コロナウイルス感染症への感染による工場の操業停止が相次いでいる。2020年4月12〜14日にかけて、IHIエアロスペース、いすゞ自動車、村田製作所が発表した。 - トヨタ東芝村田TDKの工場従業員が新型コロナに感染、スバルは操業停止を前倒し
国内の製造拠点に勤める従業員が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への感染が確認される事例が増え始めている。2020年4月4〜6日にかけて、トヨタ自動車の他、東芝、村田製作所、TDKなどが発表した。 - スバルダイハツ以外が前年割れ、2月の新車生産は新型コロナの影響が鮮明に
日系乗用車メーカー8社の2020年2月の生産実績は、新型コロナウイルスの感染が広がった中国の影響が大きく表れた。グローバル生産台数はダイハツ工業とSUBARU(スバル)を除く6社が前年割れとなった。 - 新型コロナ対応で自動車4団体、技術や人材を守る“互助会的ファンド”創設へ
日本自動車工業会(自工会)と日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会は2020年4月10日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受けて、医療への貢献や日本経済の維持に向けた自動車産業の役割について説明した。自工会 会長の豊田章男氏(トヨタ自動車 社長)がWeb中継で語った。 - 欧州の新型コロナ影響は新車生産ロス123万台、サプライヤーも2割の減収か
欧州自動車工業会(ACEA)は2020年3月31日、自動車業界の雇用における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響について調査結果をまとめた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.