パンデミックに耐えうるサプライチェーンのリスクマネジメントとは(後編):サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(特別編)(2/2 ページ)
物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する本連載。今回は特別編として、新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックにも対応可能な、サプライチェーンの維持・継続を図るためのリスクマネジメントの在り方を取り上げる。
サプライウェブ時代のリスクマネジメント
本連載では、サプライチェーンの進化の方向性として、「チェーン=鎖」から「ウェブ=クモの巣」へのトランスフォーメーションを解説してきました。すなわち、不特定多数の調達先・納品先と自由につながることができる、サプライウェブの時代になろうとしているわけです。
調達先・納品先の企業数は大幅に増加するでしょう。対象とする地域も広がります。ただそうなると、リスクマネジメントはより難しくなります。人手を中心としたアナログ的な管理では対応しきれなくなるかもしれません。広範な情報を収集・分析し、危機的事象の発生やその影響を知らせてくれるデジタルツールの活用は、その1つの解決策となるはずです。
例えば、SOMPOホールディングスのグループ会社であるSOMPOリスクマネジメントは、全世界のリスク情報を収集したリスク管理システム「SORA ONE 2.0」を提供しています。同システムに自社や調達先・納品先の拠点所在地を登録しておけば、各拠点の事業活動に影響を及ぼすおそれがある危機的事象が発生した際に、緊急アラートを配信してもらえるので、より機動的に対応できるようになります。
富士通のサプライチェーンリスク管理サービス「SCRKeeper」は、日本国内で地震を始めとする自然災害が発生したときに、各拠点に及ぼす影響を速やかに把握できます。1次取引先だけではなく、2次/3次取引先の拠点情報、生産品目別の取引関係も登録できるので、直接取引関係のない調達先が被災したときのサプライチェーンへの影響を分析し、調達先の変更や生産量の調整といった対応策を取ることが可能です。
国内最大手の航空測量会社であるパスコは、気象データを活用することで気象災害の発生によるトラック輸送への影響を低減する動態管理システム「PASCO LocationService」を提供しています。過去の気象災害が物流インフラに与えた影響をデータベースに蓄積しており、1時間当たりの降水量や降雪量、風速・風向などを基に、通行止の実施、土砂災害や内水氾濫の危険性などを6時間先まである程度正確に予測できます。例えば、通常の輸送ルートが通れなくなると予測される場合、システム画面上にアラートが表示されるので、出荷時間を早めたり、迂回路を使ったり、異なる輸送手段を選択することで、トラックの定時到着性を高められるわけです。
現状、これらのデジタルツールは、危機的事象の発生に際して、迅速かつ的確な意思決定を下すために必要な一部の情報を提供しているに過ぎません。さりながら、IoT(モノのインターネット)の進化と活用の拡大は、デジタルツールを通じて得られる情報の質・量を飛躍的に増大させます。リスクマネジメントにおけるデジタル技術の存在感は加速度的に大きくなるはずです。
地震、水害、パンデミックと、危機的事象が多発する今日において、リスクマネジメントの重要性はかつてないほど高まっています。新型コロナウイルスの終息後、多くの企業ではBCM(事業継続マネジメント)やBCPの内容を見直すことになると予想されますが、単にパンデミックへの対応策を強化・拡充するだけではなく、デジタルツールの活用も含めた「次世代型リスクマネジメントへの進化」を目指すべきではないでしょうか。
さて、今回は特別編ということで、前後編にわたってサプライチェーンの維持・継続を図るためのリスクマネジメントの在り方を取り上げました。次回は、本連載の主題に戻って、デベロッパーを取り巻く事業環境の変化を紹介したいと思います。物流施設だけではなく、各種の機械・システムをトータルで提供することにより生ずるゲームチェンジの方向性を解説します。
筆者プロフィール
小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等を始めとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。
https://www.rolandberger.com/ja/Locations/Japan.html
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