一般的なタンパク質を安定化、へろへろした熱耐性タンパク質群をヒトやハエで発見:医療技術ニュース
東京大学は、熱耐性タンパク質がヒトやハエなどに数多く存在し、他の一般的なタンパク質を安定化して変性や凝集から守る働きを持つことを明らかにした。
東京大学は2020年3月13日、熱耐性タンパク質がヒトやハエなどに数多く存在し、「Heroタンパク質」と名付けたこれらのタンパク質が、他の一般的なタンパク質を安定化して変性や凝集から守る働きを持つことを明らかにしたと発表した。同大学定量生命科学研究所 教授の泊幸秀氏らの研究成果だ。
研究チームは、ヒトやハエの細胞抽出液を95℃で加熱後、固まらずに溶けた状態のタンパク質を網羅的に同定した。その結果、熱変性を受けていないタンパク質が、ヒトにもハエにも、それぞれ数百種類存在することが分かった。熱耐性があること(Heat-resistant)、機能がほとんど分かっていないこと(Obscure)から、これらのタンパク質をHeroタンパク質と名付けた。また、決まった構造を持たずに「へろへろ」した特性があるという意味も含まれている。
さらに、Heroタンパク質は、一般的なタンパク質にとって「ヒーロー」のような機能を持つことが明らかになった。熱だけでなく乾燥や有機溶媒の存在など過酷な状況下でも、一般的なタンパク質を安定化させ、機能を正しく保つ活性を持つ。
例えば、ヒトiPS由来の培養神経細胞やハエの個体などのモデルで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因の1つであるタンパク質の異常凝集を抑制する効果が示された。タンパク質の不安定さは寿命に関係するとされるが、Heroタンパク質を全身に多く作らせたショウジョウバエのモデルでは、寿命はおよそ30〜40%程度延長した。
極限環境で生息する特殊な生物では、熱耐性タンパク質の存在は知られていたが、ヒトやハエなど一般的な環境に生きる生物では、熱耐性タンパク質がどの程度存在し、どのような機能を持つのかは不明だった。研究チームは、将来的にはHeroタンパク質を利用した医薬品開発など、さまざまな応用が期待できるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- デジタルでリアルな課題の解決を目指す欧州の新型コロナウイルス対応策
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に苦しんでいる欧州だが、その一方でデジタルを活用した対応策も出始めている。 - 新型コロナウイルスの感染検査が15分で完了、イムノクロマト法に基づく試薬キット
クラボウは、新型コロナウイルス感染の有無を目視かつ15分で行える「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット」の国内販売を2020年3月16日に開始する。10検体分の試験が可能な1キット当たりの価格(税別)は2万5000円。 - ヒトの認知機能をつかさどる脳内情報表現の可視化に成功
情報通信研究機構は、ヒトの認知機能と脳活動の関係を説明する情報表現モデルを構築し、脳内情報表現を可視化することに成功した。今後、学習や加齢による認知機能の脳内表現の変化や、個人の能力を定量的に可視化するなどの応用が期待される。 - 生体内のがん組織を指紋認証のように識別する標識化技術を開発
理化学研究所は、細胞上で人工糖ペプチドを合成することで、指紋認証のようにがん細胞をパターン認識し、そのパターンを利用してマウス体内で特定のがん組織を標識化することに成功した。 - 生命誕生の基になる可能性のある有機物の合成反応を実証
産業技術総合研究所は、鉱物を触媒として用いて、水素と二酸化炭素からギ酸やメタンなどの有機物が合成できることを発見し、この反応によってできた有機物が生命誕生の基になる可能性を提案した。 - 動物の左右をつくる新しい原理を発見
大阪大学は、脊索動物のワカレオタマボヤが、背腹の向きを決めるタンパク質であるBmpを利用して、左右の違いを作ることを明らかにした。ヒトにも共通する脊索動物の体作りへの理解につながることが期待できる。