日本の低い経済成長率の要因は本当に中小企業なのか:未来につなぐ中小製造業の在り方(3/3 ページ)
日本の中小製造業の生産性は本当に低いのか――。中小製造業の将来像をどう描くのかをテーマに、由紀ホールディングス 代表取締役社長で由紀精密 代表取締役である大坪正人氏が呼び掛け、識者によるパネルディスカッションが行われた。本稿ではその内容をお届けする。
中小製造業は付加価値をどう作るべきか
それでは、中小製造業の付加価値をどう作るべきなのだろうか。これに対しては、由紀ホールディングスとRoland Berger日本法人において取り組むプロジェクトについて長島氏が紹介した。
長島氏は「モノづくり中小企業のあるべき姿は、それぞれの企業が持つ技術や取り組みが正当に評価され、妥当な対価で取引されている状態だ。ただ、従来取引のある『モノづくりの分かる顧客』は仕様が明確で図面なども用意されている一方で価格は値下げ圧力が強いというもの。そういう意味ではコンセプトやイメージはあるがモノに落とし込めない『モノづくり知見のない顧客』を作るということが、モノづくり中小企業にとっての理想的な姿に近づく道だ。こうした顧客を作るのは大変だが、価格をたたかれることはない」と語る。
さらにこれらを体系化し、1つの軸上に「モノ起点」と「価値起点」を対極に設置。モノに近い素形材企業として近いところから「技術玄人顧客」「準玄人顧客」「技術素人顧客」と位置付け、できる限り遠い顧客と結び付く活動を訴える。「価値起点で考えることがこれらのより遠い顧客とつながる1つの手段である。モノをベースとして考えるのではなく、与えられる価値をベースに考えると、遠いところの顧客がどういうことを求めているのかが分かる」と長島氏は述べ、長寿命製品の例を挙げた。
「例えば『メンテナンスが大変なので長寿命の製品が欲しい』と顧客に言われたとする。ただ、製品開発の難易度が非常に高く、新たな機材なども必要で、開発費が折り合わない。この場合に『モノベース』のみで考えていれば、赤字覚悟で受けるか、それとも受けないかという発想しか生まれない。しかし『価値ベース』で考えれば、メンテナンスサービスを行う選択肢も生まれる。このコストが長寿命製品の開発費を下回れば、そちらの収益性の方が高いということもあり得る」と長島氏は説明する。
一方で、中小製造業の生きる道として「スーパー下請け」になる道もあると小川氏は語る。「独自技術で何でも受けられる技術力を持つスーパー下請けになると、難しい技術の相談が多く持ち込まれることになる。そうすると、技術が蓄積されて、他の分野にも横展開することができる」と語っている。
マーケットの隙間を埋める存在に
ここからは、オンラインからの質問および、報道陣からの質疑の内容を一問一答形式で紹介する。
―― 知財活用の話があったが、特許化するとオープンになり、事業の強みを守れなくなるのではないか。
西垣氏 特許化するとオープンになるのは事実だが、技術の強みを隠しながら特許を取得する手法なども確立されてきている。特許化が難しい場合は意匠権を使うという方法もある。技術を守るために意匠権を使うという発想はなかなか生まれてこないが、実際に使っているケースもある。そういう利点の認知を広げていきたい。
実際に差し止めも特許権を活用して行うケースは少なく、意匠権や商標権で行い、それでも難しい場合に特許侵害訴訟を行うというパターンが多い。知財を複合的に活用すべきだ。意匠法は2020年4月に改正法が施行されWebサイト上のデザインなどにも適用できるようになった。さらに幅広く活用できる(※)。
(※)関連記事:2020年、意匠法はどう変わる? 物品だけでなく画像や空間、そして光も対象に
―― 中小製造業にとってはとにかく時間がなく、新しいことに取り組むのが難しいが、どうしたらよいか。
長島氏 確かに中小製造業には余裕のない場合が多いが、今のIoT(モノのインターネット)などの簡単な見える化ツールなどを活用するだけで、10%程度の効率化は実現できる。何とかその10%を生み出し、その時間を使って外部の人と会うということをやってもらいたい。こうした空いた時間を投資するというサイクルを作るということが重要だと考えている。
―― オープンイノベーションなどで大企業と中小企業を結ぶような仕組みも盛り上がりを見せているが、その動きについてはどう考えるか。
大坪氏 さまざまな取り組みがあるが、多くの大手企業によるオープンイノベーションの取り組みは単純に大手企業が調達先を探したいだけになっている。なかなか技術を認めてくれて対等の関係性を結べるケースが限られているのが現状だ。情報を十分に与えてもらえなかったり、共同開発した知財も持てなかったりと、双方向ではない場合が多い。
小川氏 われわれの取り組みでは、委託だがリソースの対価はしっかりもらう形で行っている。特許や知財も10%分は費用を負担し共有化しているケースがある。ただ、ここ最近感じているのが、大手企業の技術力低下だ。海外展開が進んだという面もあるが、国内のエンジニアが現場を知らないケースが増えてきた。出てくる図面がどうしようもない場合もある。そういう意味では「つくるプロ」として、対等の関係でパートナーシップを結べる機会は増えてきているように感じている。それぞれの求めるものが離れてきているので、その内容を翻訳してとりまとめるコンサルテーション的な作業の重要性は高まっている。
―― 中小製造業の成功の先には何があるのか。大企業化するのが目的となるのか。
大坪氏 成長していくと結果として大きな企業になるというのはあるかもしれないが、今は会社の規模によらずにできることが増えてきている。グローバルニッチトップを極めていく。量ではなく質を上げていく。
小川氏 大企業には大企業の、中小企業には中小企業の役割がある。大企業の粒度で見ると、市場の中では隙間ができる。その小さな隙間を埋めるのが中小企業の役割だ。隙間を埋めるニッチの多様性を生み出すのが中小製造業の存在意義となる。
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