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日本の低い経済成長率の要因は本当に中小企業なのか未来につなぐ中小製造業の在り方(2/3 ページ)

日本の中小製造業の生産性は本当に低いのか――。中小製造業の将来像をどう描くのかをテーマに、由紀ホールディングス 代表取締役社長で由紀精密 代表取締役である大坪正人氏が呼び掛け、識者によるパネルディスカッションが行われた。本稿ではその内容をお届けする。

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 パネルディスカッションでは、それぞれの知見を基に中小企業の在り方について議論を進めた。

日本の中小製造業は多すぎるのか

 小川製作所 取締役の小川真由氏は、ブログなどで中小製造業の生きる道についてさまざまな情報発信を行っているが、その中で正しい情報に基づいた知見の重要さを訴える。元外資系アナリストで現在は小西美術工藝社社長を務めるデービッド・アトキンソン氏が「日本の中小企業は多すぎる」という内容の著書で表明していたが、小川氏は「日本の経済生産性が低いのは、中小企業が多すぎるからではない」ということを訴えた。

 「OECD(経済協力開発機構)の調査において従業員数が250人以上を大企業、249人以下を中小企業と仮に置いた場合、それぞれの数だけを見ると米国が大企業2万6000社(日本は1万1000社)、中小企業が421万5000社(日本は280万3000社)と圧倒的な数を誇る。しかし、人口当たりの企業数で考えると決して多くはないことが分かる。米国は人口百万人当たりで大企業が80社(36カ国中29番目)、中小企業が同1万3000社(同36番目)という状況。日本は大企業が同87社(同25番目)、中小企業が2万2000社(同33番目)で、決して中小企業の数が多すぎるとはいえない」と小川氏は述べる(※)

(※)参考記事:小川真由氏ブログ「日本の中小企業は本当に多いのか!?」

 日本では中小企業の定義として、製造業は300人以下(または資本金3億円以下)、卸売業が100人以下(または資本金1億円以下)、小売業が50人以下(または資本金5000万円以下)、サービス業が100人以下(または資本金5000万円以下)の場合を中小企業と定義しており、これらの定義を基にすると日本の企業の99.7%は中小企業となる。これらの企業に所属する被雇用者は約7割となり、生み出されている付加価値は約5割を占めるとする。「中小企業の生産性などを考える時には企業数だけではなく、雇用と付加価値を同時に考えるべきだ」と小川氏は語っている。

 中小企業の中で製造業の割合は約1割であり数だけで見ると多くはない。ただ「中小企業の中で数が多いのはサービス業である。ただ製造業はサプライチェーンを構築しており、中小製造業であっても大企業のサプライチェーンの一端を担うケースも多いため、影響度は大きい」と経済産業省 特許庁 中小企業知財戦略総合支援調整官の西垣淳子氏は述べる。

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特許出願件数・現存権利件数に占める中小企業の割合(クリックで拡大)出典:総務省・経済産業省「平成28年経済センサス 活動調査」

日本企業の生み出す付加価値が少ない要因は

 さらに小川氏は工業統計調査による企業規模別の国内の付加価値額を、2002年と2017年で比較し「小規模企業と比べて大手企業(1000人以上)の付加価値額は約3倍となっており、生み出す付加価値の差を生じているのが分かる。一方で、大手以外の付加価値額は微増ではあるが伸びているのに、大手企業は15年で付加価値額が下がっている。海外移転が進んだことが要因だと考えられるが、世界各国が付加価値額を大きく伸ばしている中で、日本が停滞しているということは明らかだ」と指摘する。

 では、付加価値を創出する研究開発の状況についてはどうかを見てみると「日本、米国、ドイツ、韓国を比較すると、日本は大企業の研究開発費用が高いことが分かる。1万人以上の企業における研究開発費用の割合は最も高い。一方で日本は小さい企業の研究開発費用の比率が非常に低い。米国は企業規模が大きくなれば研究開発費用の比率は下がり、300人以下の企業が最も多く研究開発投資を行っている」と小川氏は各国の状況を紹介する。またドイツについては、Roland Bergerのグローバル共同代表兼日本法人 代表取締役の長島聡氏が「大企業から中小企業まで各層で一定の研究開発投資が行われている」と説明する。

 西垣氏はさらに特許庁としての視点で、特許権、意匠権、商標権の所有状況を紹介し、大企業と中小企業の違いに触れる。「中小企業は特許権は取得しても大手企業のように複数の権利を組み合わせて、知財ミックスによりビジネスを守るというようなことがあまりできていない。実は意匠権だけでも知財を守ることができるケースも多く、それぞれの特徴を生かすことで、かなりの権利が守れる。特に中小製造業には意匠権や商標権をうまく使う発想をぜひ持ってもらいたい」と語る。

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知的財産権別、出願件数に占める中小企業割合(クリックで拡大)出典:経済産業省 特許庁総務部普及支援課調べ

 大坪氏はビジネスの現状として「由紀精密としては良いものを高く売りたいということを常に考えている。その場合、欧州では良いものを作れば高く買ってくれるという文化がある。モノづくりだけで見ると日本が負けているということはほとんどない。しかし価格が全く違う」とし「欧州で付加価値が高いのは知財の活用という面もあるのか」と問題提起を行った。

 これに対し「特許出願状況だけで見ると、中国が現在圧倒的な勢いで伸びている。米国も高く、日本はやや下がってきている状況だ。ただ、欧州との比較でみると、日本は約31万件であるのに対し、EUは約17万件と少ない」と西垣氏は説明する。

 一方、長島氏は「欧州ではもともと標準を作りその標準を取得して製品を展開することで高く売るということが行われていた。さらに加えて、先に標準を合わせることで無駄な研究開発投資を行わないという発想がある。デジュール(公的な標準)とデファクト(市場競争の結果による事実上の標準)によらず、とにかく先に標準を作って無駄を抑えるというのが欧州の文化だ。そういう意味では規格争いでとにかく特許を取るということはあまり行わない」と欧州の状況を説明した。

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