データで「何」を照らすのか、デジタル変革の“際”を攻める日立の勝算:製造業×IoT キーマンインタビュー(3/3 ページ)
産業用IoTの先行企業として注目を集めてきた日立製作所。同社が考えるデジタル変革の勝ち筋とはどういうものなのだろうか。インダストリーセクターを担当する、日立製作所 代表執行役 執行役副社長 青木優和氏に話を聞いた。
グローバルでロボットSI事業を本格展開へ
MONOist JRオートメーションがある米国や、ケーイーシーがある国内がサービス対象エリアとなるのは分かりますが、その他地域でのロボットSI事業はどのように展開する計画ですか。
青木氏 米国はJRオートメーションが多くの顧客を抱えているので、彼らを前面に押し出して事業機会を拡大していく。米国のオートメーション業界では日立のブランド力はそれほどないが、それをJRオートメーションに補ってもらう形だ。ちょうど2020年1月には両社によるキックオフも行い、士気は高まっている。直近では自動車関連の景況感が悪くなっているが、中期で見れば、生産技術者が枯渇するのは見えており、ロボットSIとITを結ぶ価値は広く受け入れられると考えている。
欧州についてもJRオートメーションを中心に展開する。同社の拠点が複数あり、既にフットプリントがあるというのが大きい。中国とインドについては、逆にケーイーシーが進出しており、同社を経由して市場の開拓を行う。日系企業の進出先については、どちらかといえばJRオートメーションよりケーイーシーの方が向いている。ロボットSIはどうしても時間がかかるビジネスだが、既に持っている強みを生かすことで、短期で成果を出せるようになる。
さらなるM&Aやパートナー企業の拡大についてはまだ特には決まっていない。価値があり共に成長できるポイントがあるのであれば投資することは十分にあり得る。
インダストリーセクターの一体運営
MONOist 2019年4月から日立内でもインダストリーセクターとして産業領域を「一体運営」する仕組みと変えました。その狙いについてどう考えますか。
青木氏 先述した通り、日立製作所の強みは幅広いポートフォリオである。デジタル変革の動きが加速する中、顧客側にも日立の持つこれらの製品群やポートフォリオをソリューションとしてまとめて使いたいニーズがあった。しかし、顧客側がそれを望んでも今までは日立側がまとまっていなかったため、うまく価値を提供できない場面があった。
日立はもともと独立心が高く、個別の事業はそれぞれで行う文化があり、それが強みの1つとなってきた。ただ、その一方で顧客の求めるニーズが包括的なものだったとしても、それぞれの事業部門が単独で提案を進めがちだった。電力関係を担うエネルギーセクターや、情報機器を扱うITセクターは以前から一体で動く体制があったが、産業系の領域ははっきりしていなかった。こうした状況を変えるために「セクター制」を導入し、「インダストリーセクター」として一体運営できるようにした。
「インダストリーセクター」には、「産業・流通BU(ビジネスユニット)」「水・環境BU」「日立インダストリアルプロダクツ」「日立産機システム」の4つのカンパニーがあるが、経営層から部長クラスまでは研修を行い、従来は個別最適だったところが徐々に文化的に変わってきた。また受注の仕組みも変えてきた。顧客ごとに仮想プロジェクトを作り日立の持つリソースを顧客価値の視点で最適に提案できるように変えた。
「際」という概念で提案を進める中では、既存の手法の改善だけではなく従来のやり方を一気に破壊するようなことも起こり得る。効率化により部門内の人を減らすだけでなく、部門ごとなくすような変革こそがデジタル変革の価値だといえる。最適化だけの思考ではこうした発想は生まれてこない。一連の枠組み全てをさまざまな角度から見て初めて新たな発想が生まれる。「インダストリーセクター」はセクター内に一連の枠組み全てをそろえているのがユニークな点である。一体運営で従来の延長線上にはない発想を生み出せる。
中長期的に日立が成長していくためには、こうした取り組みにより人を育てていかなければならない。全てを生かしていくのは人である。思いのある人をレイヤーごとに育てて、全体最適となる提案ができる体制を作り上げていきたい。
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