駅まで徒歩18分のマンションを便利に、MONETと不動産会社がMaaSを導入:モビリティサービス
MONET Technologiesと日鉄興和不動産は2020年2月20日、東京都内で記者会見を開き、マンション入居者専用のオンデマンドバスの実証実験を同月21日から開始すると発表した。
MONET Technologiesと日鉄興和不動産は2020年2月20日、東京都内で記者会見を開き、マンション入居者専用のオンデマンドバスの実証実験を同月21日から開始すると発表した。
サービスを導入するのは東京都江戸川区東葛西にあるマンションで、最寄駅の東京メトロ東西線葛西駅までは徒歩18分を要する立地だ。さらに、駅から離れた場所に公園や病院、商業施設が点在している。こうした環境で、予約に応じて26人乗りのマイクロバス1台を平日の朝7時から夜11時まで走らせ、最寄り駅までの移動や日中の外出にどのように使われるか検証する。
マンション周辺の複数の駅や公園、病院、商業施設などを11カ所を乗降ポイントとして設定しており、乗降ポイント間は自由に移動できる。また、利用実績や利用者の要望を踏まえて乗降ポイントの追加や見直しを進める。
実施期間は6カ月から1年を予定している。乗車料金は有料だ。ニーズや行き先、採算性、オペレーションの在り方を探り、郊外のマンションや、都心の単身者向けマンションなどで広く導入することを目指す。また、MaaSによって郊外や駅から遠い物件の利便性を向上し、安価なマンションの開発にもつなげたい考えだ。
カーシェアやタクシー、路線バスではなく、オンデマンドバス
日鉄興和不動産はマンション事業において、無人コンビニや宅配型トランクルーム、家具のサブスクリプションサービスなど先進的なサービスの導入に取り組んでいる。MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)もその1つで、2019年6月にMONETコンソーシアムに参加した。
会見に登壇した日鉄興和不動産 常務取締役 住宅事業本部長の吉澤恵一氏は、マンション向けのMaaSについて検証すべきポイントを幾つか挙げた。その内の1つが、タクシーや路線バスなどの既存の交通手段やカーシェアと比較したオンデマンドバスの強みだ。
吉澤氏は「クルマでの近距離の外出に対するニーズが潜在的に高まっているとみている。カーシェアは増えてきているが、ちょっとした移動に手軽に使えるとは言いにくいのではないか。また、毎回違うクルマで操作が変わることを敬遠する人もいる。バスは、ベビーカーがあると周囲の目が気になって使いにくいという声も聞いている。行先で駐車場を探す必要がないというメリットがオンデマンドバスにある」とし、オンデマンドバスに対する需要に期待を寄せる。
オンデマンドバスでの行先については当初は最寄駅だけではないかと懸念されていたが、住民へのヒアリングで公園や病院、公共施設のほか、葛西駅の1つ先の西葛西駅、葛西駅からマンションの隣の大型商業施設など、さまざまな要望があることが分かった。さらに、オンデマンドバスがマンション入居者専用であることから、塾や習い事に通う子どもが1人でも乗りやすいという声もあった。
採算については、住民主体で最低限の費用を負担し合う自家用共同利用バスであることから高い収益をあげることは狙っていない。1日で300人の乗車があれば赤字にならない見込みで、赤字が発生しても赤字分は日鉄興和不動産が負担する。これまでに他のマンションで導入されてきたシャトルバスは通勤通学用途が主で、昼間の稼働率が低いことが課題だった。そのため維持コストが高く、500戸を超える大規模物件でなければ継続が難しかった。日鉄興和不動産は、通勤通学以外の利用が見込める子育て世代の多いマンションに導入するとともに、オンデマンド運行とすることで昼間の稼働率を上げる。
オンデマンドバスは、スマートフォンアプリを通じて予約する。乗車する24時間前から10分前まで予約可能で、乗車料金はQRコード決済もしくは回数券で支払う。乗車料金は小学生以下が無料だが、朝7〜9時のマンションと葛西駅間のシャトル運行中は200円、その後夜11時までは300円となる。価格は「払ってでも使いたいと思ってもらえる水準で決めた。路線バスよりも安いから取りあえず使うという人が多くなってしまうと本当のニーズが見えにくくなる」(吉澤氏)という考えで決めた。
今回の実証実験の成果を踏まえて、日鉄興和不動産は葛西エリアの他の物件にも展開したり、複数物件でオンデマンドバスを共同で利用する形態に拡張したりする計画だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- トヨタがデジタルツインで街づくり、移動、生活、インフラの新技術を試す
トヨタ自動車は消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2020」(2020年1月7〜10日、米国ネバダ州ラスベガス)において、静岡県裾野市に設置する実証都市「コネクティッド・シティ」のプロジェクトを発表する。モノやサービスをつなげる環境を整え、実際に人が住んで生活しながら、自動運転車やカーシェアリング、コネクテッドカー、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホームなどの活用に向けた実証を行う。 - 通院や往診が難しい地域に「医療MaaS」でオンライン診療、フィリップスとMONET
フィリップス・ジャパンは2019年11月26日、長野県伊那市において、同年12月から医療MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)の実証事業を行うと発表した。看護師と各種医療機器を乗せた「ヘルスケアモビリティ」が患者宅を訪問し、医師が遠隔からオンラインで診療できるようにする。実証事業の期間は2021年3月末までで、フィリップス・ジャパンは伊那市やMONET Technologiesと協力して取り組む。 - パナソニックが46万m2の本社敷地で自動運転シャトル、目指すは人中心の街づくり
パナソニックは2019年10月17日、東京都内で説明会を開き、社長直轄の組織「モビリティソリューションズ」の取り組みを発表した。自動車部品を手がける「オートモーティブ社」とは別の部門で、低速で短距離の生活圏の移動にフォーカスしたモビリティサービスを開発する。車両の自社開発にはこだわらない。 - MaaSの次世代戦略で各社が重視する、4つの分野とは
矢野経済研究所は2019年12月12日、MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)関連企業の次世代戦略を調査した結果を発表した。 - 100年のしがらみを突き破る、パナソニックのモビリティ変革とその第一歩
MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2020年1月30日、大阪市内でセミナー「MONOist IoT Forum in 大阪」を開催した。本稿の前編ではパナソニック モビリティソリューションズ担当 参与 村瀬恭通氏による基調講演「クルマ中心から人中心のまちへ 変革するモビリティへの挑戦」の内容を紹介する。 - ホンダが四輪事業強化で一体運営に体制変更、MaaS新会社も
ホンダは2020年2月18日、4月1日付で実施する事業運営体制の変更を発表した。2030年ビジョンの実現に向けて、既存事業の“盤石化”と、将来の成長に向けた仕込みを加速させる体制とする。