全ての製品が「デジタルツイン」に、リアルとバーチャルをセットで売る時代が到来:MONOist 2020年展望(2/2 ページ)
IoTやAIの活用による理想像として描かれた「デジタルツイン」の世界が2020年はいよいよ現実化しそうだ。あらゆる情報を収集した“完璧なデジタルツイン”の構築は難しいが、用途を限定した“限られたデジタルツイン”の構築が進みつつある。2020年はこれらを組み合わせた“デジタルツインのアセンブリー”などへと進む見込みだ。
“完璧なデジタルツイン”ではなく“限られたデジタルツイン”を複数構築
現在こうした考え方はさまざまな領域に拡張している。より幅広い概念として「企業活動全体のデジタルツイン」や、スマートファクトリーへの取り組みの中で製造装置の情報を集めるための「デジタルツイン」など、さまざまな領域で活用への取り組みが進んでいる状況だ。
ただ、「デジタルツイン」は「リアルの世界のあらゆる情報を収集してサイバー世界に再現する」概念ではあるものの、リアル世界の“モノ”には無限に近いデータ項目が存在する。そのため「あらゆる情報を再現する」という点では、理論上は可能であるものの、実際には「ほぼ不可能」である。そこで、“完璧なデジタルツイン”ではなく目的に合わせて構築するデータ項目などを規定する“限定されたデジタルツイン”の構築が進んでいる状況である。
産業用IoTなどのアナリストである、米国Gartner リサーチ&アドバイザリー シニアディレクターのPeter Havart-Simkin(ピーター・ハバート・シムキン)氏は「デジタルツインには3つの基本タイプがある」と述べている。「組織のデジタルツイン」「複合的なデジタルツイン」「個別のデジタルツイン」である。これらを用途に合わせて使い分けていく形が整理されつつある。
デジタルツインを“組み立てる”時代に
シムキン氏は加えて「最終的には全ての製造業が全ての製品でデジタルツインを構築するようになる」と語っている。例えば、自動車メーカーなどを例にした場合「自動車メーカーだけがデジタルツインを作るのではなく、各サプライヤーがそれぞれの部品においてデジタルツインを作るようになる。こうしたデジタルツインを組み合わせて、自動車メーカーがより高度なデジタルツインを作り出すようになる」(シムキン氏)。
こういう状況が生まれた時に必要になるのが「デジタルツインを組み合わせる」ということになる。例えば、自動車メーカーのサプライヤーがパーツの納入と合わせて、デジタルツインを納入する。それを工場でのアセンブリーと同様にデジタル世界でも“組み立て”を行うようになると予測されている。
「全てのサプライヤーが構築したデジタルツインモデルを自動車メーカーがデジタルの世界で組み立てるのか、それともティア1サプライヤーが最適な形で組み直して、自動車メーカーに納品する形なのか、最適な形はまだ分からない。契約方法などさまざまな課題はあるものの、“デジタルの双子”が生まれるのであれば、サプライヤーがそれも併せて提供する時代が来るのは間違いないだろう」とシムキン氏は述べている。
製造業の「モノ」から「コト」へのシフトに大きな注目を集めているが、製造業にとっての製品の価値が「ハードウェアとデジタルサービスを組み合わせたもの」へと変わっていく中で、あらゆる製造業がリアル製品と一緒にデジタルツインモデルを提供する時代が見えつつある。既にドイツの自動車サプライヤーなどを見ると、部品の提供と組み合わせてデジタルサービスを提供するケースも増えており、これらのクラウド上で構築された「デジタルツイン」を連携させるような動きも顕在化しつつある。
まだまだリアル面、デジタル面、それぞれで技術的な課題や、ビジネス上の価値をどうするかなどの課題はあるものの、2020年は幅広い業界でこれらの「ハードとデジタルツイン」を組み合わせて提供する動きが広がりを見せるだろう。
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