変貌する月面探査の勢力図――国家から民間、そして個人の時代へ:宇宙開発(3/3 ページ)
アポロ11号による人類初の月面着陸から50年。長らく進展のなかった月面探査に大きな動きが生まれつつある。2007年にスタートした「Google Lunar XPRIZE」をきっかけに国家と民間による月面探査が活況を呈し、新たなフェーズに入りつつあるのだ。大塚実氏が、月面探査の最新状況について報告する。
日本初の月面探査は国か民間か
以上、民間による月面探査の動きを紹介してきたが、最後に、国家のプロジェクトについても簡単にまとめておこう。
まず日本は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が2021年度に小型月着陸実証機「SLIM」を打ち上げる予定。ピンポイント着陸のほか、セラミックスラスター、二段階着陸方式、衝撃吸収機構、耐酸化剤ダイヤフラムなど、技術的に興味深い点はいろいろあるのだが、とても簡単にはまとめられないので、もっと知りたい人は各自で調べてみてほしい※)。
※)関連リンク:小型月着陸実証機 SLIM
実はSLIMよりも前に、月面に着陸する可能性がある日本の探査機がある。それが、重量14kgの超小型探査機「OMOTENASHI」だ。12×24×36cmと、小さなかばんくらいの大きさしかないものの、機体中央に固体ロケットを搭載。降下中に本体を捨て、ロケットで減速することで、わずか1kgの超小型ランダーを着陸させる計画だ。
ただし、これは米国のSLSロケットに相乗りする計画。SLSの開発はズルズルと遅れており、初打ち上げがいつになるのかは、ちょっとまだ分からない状況だ(今のところ2020年の予定)。SLIMより早くなるかどうかは、SLSの進捗次第といえるだろう。
日本は今後、インドとの協力による極域探査ミッションも検討中だ。月の極域には、貴重な資源となる水の存在が期待されている。日本がロケットとローバー、インドがランダーを担当する方向で検討が進められており、早ければ2023年にも実現する見通しだ。
そのインドは、2008年の月探査機「チャンドラヤーン1号」に続き、2019年7月には「同2号」の打ち上げを実施。搭載したランダー「Vikram」による、同国初の月面着陸に挑んだ。Vikramは高度2.1kmまでは正常に降下していたものの、そこで通信が途絶。月面に激突したとみられ、4カ国目となる月面着陸は果たせなかった。
一方、着実に成果を積み上げているのが中国だ。日本と同時期に打ち上げた「嫦娥」シリーズは、すでに4号まで実施済み。3号で世界3カ国目となる月面着陸に成功すると、ローバー「玉兎」による月面走行も実行。さらに4号では、世界初の月の裏側への着陸にも成功した。中国はそのために、事前に通信を中継する衛星まで打ち上げている。
そして忘れてはいけないのが世界の宇宙開発をリードしてきた米国なのだが、先行きは読みにくい。米国は現在「Artemis」計画を進めており、2024年に再び人類を月面に送る予定。ただ米国はこれまでも、大統領が代わると計画が大きく変わるということを繰り返しており、次回2020年の大統領選挙の結果次第では、どうなるか分からない。
米国はまた、国際協力によって、月周回有人拠点「Gateway」の建設計画も進めている。既に日本も参画することを決めており、輸送機として新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」を活用する方針だが、当面は、米国の動きを慎重に見極めながら、難しいかじ取りを迫られることになるのではないだろうか。
宇宙開発は遅れるのが当たり前の業界であり、今後、これらの計画が大きく変わっていく可能性もあるが、動向には引き続き注目していきたいところだ。アポロ以来となる有人着陸は、いつ、どの国が実現するのか。日本初の月面着陸や月面走行は、いつ、誰が実現するのか。気になる話題は盛りだくさんである。
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