第4次産業革命で取るべき戦略、スキル人材の活用と技能のデジタル化:ものづくり白書2019を読み解く(3)(5/5 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2019年版ものづくり白書」が2019年6月に公開された。本連載では3回にわたって「2019年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第3回となる今回は、第4次産業革命において製造業が取るべき戦略の内「スキル人材の活用」と「技能のデジタル化、省力化」について取り上げる。
製造技能のデジタル化の現状と課題
技能人材の不足による企業経営への影響が深刻化する中、日本の製造業の強みである熟練技能が現場に残っているうちに、デジタル化やAI化を推進することは必須といえる。しかし一方で、製造・生産現場の技能のデジタル化に取り組む中小企業の割合を見ると、大企業の半分程度にとどまる。また、そのうちうまくいっている企業の割合は大企業の3分の1近く(中小企業全体の1割程度)にとどまる(前掲:図10)。
中小企業における製造・生産現場の技能のデジタル化への取り組み内容としては、「技能者の勘や経験を数値化して、データベース化している」が52.1%、「技能者の動きをビデオや画像に収めている」が35.6%、「技能者の勘や経験を数値化して、機械化している」が34.7%、「人工知能を活用して、技能者の勘や経験を学習させている」が3.6%となっている(図17)。
一方で、製造・生産現場の技能のデジタル化に取り組みたいと考えながら未着手の中小企業は全体の57.3%にも上る(前掲:図10)。未着手の理由としては、「技能のデジタル化の知見が足りない」が74.0%、「取り組む時間がない」が42.2%となっている。資金不足を理由にデジタル化に着手していない中小企業は25.4%で、大企業の倍以上の割合となっているものの、知見不足、時間不足を理由に挙げた企業よりは低くなっている。このことから、中小企業で技能のデジタル化が進まない要因としては、資金面より知識や人材・組織面での課題が大きく関わっているといえる(図18)。
このような状況のなか、国内製造業もさまざまな取り組みを進めている。工作機械メーカーの日藤ポリゴン株式会社(兵庫県)は、兵庫県立大学との産学連携により「匠の技プロジェクト」を推進。これまで「暗黙知」とされ習得までに数年を要した工程を力覚センサーにより計測・デジタル化することで体系化し、効率的な技能習得を可能にしようとしている。また、従前は人でしかできなかった作業について、AI・IoTをはじめとする第4次産業革命により、それまでより効率的に実施できる事例が拡大し、ほぼ人のいないスマートな生産工程も増えつつある。
全国的な人手不足はますます深刻化しており、今後は人手を確保することがより困難になることが見込まれる。2019年版ものづくり白書では、こうした深刻な人手不足を踏まえてAI、IoT、ロボットの活用による現場の徹底的な省力化を推進し、技能継承も含めた生産性の向上を図ることが必須だとしている。
日本の製造業が抱えるマイナス面を追い風にするような発想の転換を
これまで見てきたように、2019年版ものづくり白書では、平成の製造業、過去のものづくり白書の振り返りや各国との比較、アンケート調査の結果や事例などを通して現状を分析し、第4次産業革命の進展に加え、米中対立に代表される保護主義的な動きの台頭や世界的課題への対応など、製造業を取り巻く新たな環境変化を直視し4つの方策を論じている。
待ったなしで進む人口の減少や現場の高齢化などのマイナス材料はあるものの、あらためて世界に目を向けて日本の製造業の強みを認識し、新たなサービスの提供や新たなマーケットの獲得につなげる視点、また国内においては人材の確保やデジタル化による省力化の実施など、マイナス面を追い風にするような発想の転換が望まれる。
筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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