正常な骨には存在しない、関節炎で骨を破壊する悪玉破骨細胞を発見:医療技術ニュース
大阪大学は、破骨細胞には、正常な破骨細胞と性質・起源が異なる悪玉破骨細胞が存在することを発見した。炎症関節の細胞を採取・解析する技術を開発し、関節炎で病的に骨を破壊する悪玉破骨細胞を同定した。
大阪大学は2019年11月19日、破骨細胞には、正常な破骨細胞と性質・起源が異なる悪玉破骨細胞が存在することを発見したと発表した。炎症関節の細胞を採取・解析する技術を開発し、関節炎で病的に骨を破壊する悪玉破骨細胞を同定した。同大学大学院医学系研究科 教授の石井優氏らの研究成果だ。
古い骨を溶かす破骨細胞は、骨の内側に存在し、骨を造る骨芽細胞と協調して骨構造を維持する。一方で、関節リウマチなどの病的な状態では、関節組織に発生して骨を外側から壊すことで、関節構造を破壊する。
今回の研究では、関節炎において病的な骨破壊が起こる部位の組織を単離する、独自のプロトコールを開発。関節炎を発症した関節組織には、正常な骨には存在しない病的な破骨前駆細胞が存在することを発見した。研究グループでは、この破骨前駆細胞を「arthritis-associated osteoclastogenic macrophage(AtoM:アトム)」と命名している。
AtoMは、関節に常在する細胞からではなく、骨髄由来の細胞が血流を介して関節に流入した後、単球系細胞が破骨細胞へ分化するために必要なサイトカインのM-CSFに反応して発生する。このうち約10%の細胞が、関節局所で病的な破骨細胞へと分化することが明らかになった。
また、網羅的な遺伝子発現を調べたところ、AtoMがFoxM1と呼ばれる転写因子によって部分的に制御されていることが示唆された。さらに、FoxM1の阻害薬が、マウスおよび関節リウマチ患者の関節液から採取した細胞において、破骨細胞への分化を阻害することが明らかになった。
病的な破骨細胞が発生する過程が解明されたことで、今後、関節の表面に形成される病的な破骨細胞への新たな治療法の開発が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- あなたの骨を3Dプリンタで作ります、細胞増殖が可能な人工骨
理化学研究所とリコーは、3Dプリンタを用いて、患者の骨の内部を含む欠損部位の形状を再現する手法を開発した。作製した3次元造形人工骨は、数分間水洗いすれば細胞が増殖できる状態になり、強度や骨置換性に優れていることが分かった。 - カメラ1つで人の動きを自動検出する「骨紋」、不具合の分析期間を10分の1に減少
三菱電機は「CEATEC 2019」(2019年10月15〜18日、千葉県・幕張メッセ)において、カメラ1台の映像から人の骨格情報を抽出し動作を自動検出する作業分析技術「骨紋」を披露した。 - 3Dプリンタで成形する「カスタムメイド人工骨」をEU諸国で製造・販売
NEDOプロジェクトにおいて、3Dプリンタで成形するカスタムメイド人工骨CTボーンを開発したネクスト21が、2015年4月30日にオランダXillocとEU諸国における製造・販売に関するライセンス契約を締結した。 - 無重力で発現が急上昇する骨関連遺伝子を発見、メダカの連続撮影で明らかに
東京工業大学は、国際宇宙ステーション「きぼう」でメダカを8日間連続で撮影し、骨芽細胞マーカーなどの骨関連遺伝子と、その他の5つの遺伝子の発現が無重力下で急上昇することを明らかにした。 - トヨタの仮想人体モデルに新バージョン、姿勢変化と骨や内臓の障害を同時解析
トヨタ自動車は2019年2月8日、衝突事故発生時の乗員や歩行者を再現するバーチャル人体モデル「THUMS」を改良し、バージョン6として発売したと発表した。最新バージョンでは、乗員の姿勢変化と、衝突時の骨や内臓の傷害を同時に解析することが可能になった。JSOLと日本イーエスアイを通じて販売する。 - 細胞を生きたまま観察し、骨形成の初期過程を解明
大阪大学は、骨芽細胞を生きたままナノレベルで観察し、骨の素となる基質小胞が運搬、分泌される過程を解明したと発表した。骨粗しょう症、歯周病などの病態解明や治療法の開発につながることが期待される。