マラリアの病態の重症化機構を解明、マラリア重症化対策技術の開発に期待:医療技術ニュース
東北大学は、マラリアの重症化に見られる構成タンパク質の網羅的なネットワークを作製し、原虫や宿主タンパク質の局在解析、ノックアウト原虫の作製などによって、マラリアの病原性に関連する原虫タンパク質の同定に成功した。
東北大学は2019年10月30日、マラリアの重症化に見られる構成タンパク質について網羅的なネットワークを作製し、原虫や宿主タンパク質の局在解析、ノックアウト原虫の作製などによって、マラリアの病原性に関連する原虫タンパク質の同定に成功したと発表した。同大学大学院農学研究科 教授の加藤健太郎氏らの研究グループによる成果だ。
研究では、まず、熱帯熱マラリアの病態発現機構と重症化機構の解明のため、感染赤血球内で原虫から赤血球膜上に輸送されるタンパク質の網羅的解析を試みた。マラリア原虫の感染赤血球内でタンパク質輸送をつかさどる複合体が形成するマウレル裂の構成タンパク質SBP1と、複合体を形成しているタンパク質の同定を質量解析によって行った。
その結果、SBP1と複合体を形成しているタンパク質の候補因子として、205の原虫タンパク質と51の宿主タンパク質の同定を行い、得られた網羅的遺伝子発現データについて、遺伝子オントロジー解析を進めた。
次に、原虫と宿主タンパク質について、マウレル裂に局在し、マラリア感染赤血球内のタンパク質輸送に関わっているかを調べたところ、実際に輸送されているタンパク質の新規同定に成功。また、アミノ酸配列の有無に関係なく、感染赤血球膜へと輸送されるタンパク質の新たな同定にも成功した。
さらに、同定した各原虫タンパク質をノックアウトした原虫の作製を試み、マラリア原虫のライフサイクルの中で赤血球内でのステージに必須の遺伝子であるか解析を行った。必須である場合はノックアウト原虫を作製できなかったため、複数の必須遺伝子の同定に成功した。
野生株との比較も行い、作製できたノックアウト原虫において感染赤血球と血管内皮レセプターとの結合が増強されたことから、感染赤血球と血管内皮との結合に関わる原虫タンパク質の同定にも成功した。
以上から、熱帯熱マラリアの病態発現、重症化に関わる原虫タンパク質の同定に成功。マラリア感染赤血球内での原虫および宿主タンパク質の輸送に関する網羅的なインタラクトームデータを得られた。本研究成果が、マラリアの新たな重症化対策技術の開発につながることが期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 乳酸菌K15が感染抵抗性を向上、発熱日数も少なく
キッコーマンは、千葉大学らとの共同研究により、乳酸菌K15が持つ感染予防や感染抵抗性の増強効果について確認した。 - 感染症の早期発見につながる抗体を検出する光る紙チップを開発
慶應義塾大学は、大きさ1cm程度の感染症診断のための簡易検査用紙チップを開発した。検査手順は紙チップに血液を一滴垂らしてデジタルカメラで撮影するのみで、20分ほどで青〜緑色の発光により結果が判明する。 - インフルエンザウイルス感染時の解熱の必要性を細胞レベルで証明
東北大学は、インフルエンザウイルス感染時の発熱に相当する、39〜40℃の高温下における呼吸器細胞の生存率を研究。感染時の治療において、解熱の必要性があると細胞レベルで証明した。 - AIが手術後感染の有無を精度85%で予測、関連する因子も明らかに
NECソリューションイノベータと新潟大学は、AIを活用し、消化器外科手術患者の手術後感染を予測するモデルを構築した。予測精度AUC85%を達成した他、手術後感染と関係する、年齢やBMI、手術時間などの因子も可視化できた。 - ウイルス粒子を光と動きで検出するバイオセンサーを開発
産業技術総合研究所は、「外力支援型近接場照明バイオセンサー」を開発した。夾雑物を含む試料中のごく少量のバイオ物質を、夾雑物を除去しなくても高感度に検出でき、ウイルス感染予防への貢献が期待される。 - ナノワイヤで微生物を簡単に破砕、家庭でも病原性微生物の判定が可能に
名古屋大学は、微生物を簡単に破砕して、微生物の種類を特定する新技術を開発した。同技術を活用することで、今後、O-157のような菌の有無を家庭などで容易に検査できるようになり、感染症の予防につながることが期待される。