トヨタの未来の愛車づくりは、「愛車」が伝わらないところから始まった:東京モーターショー2019 インタビュー(2/2 ページ)
AIエージェントはどのように人を理解し、クルマを愛する気持ちを喚起するのか。AIエージェント「YUI」を搭載したコンセプトカー「LQ」の開発責任者であるトヨタ自動車 トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab グループ長の井戸大介氏に話を聞いた。
早ければ2週間で、YUIはあなたを理解する
MONOist クルマの中にいる時間は短いので、ドライバーのことを理解するにはクルマの外にいる時のデータも必要だと思います。AIエージェントはどのようにしてドライバーのことを理解しますか。
井戸氏 LQ試乗会の参加者には、事前にスマートフォンアプリを配布する。試乗会は、お客さまにデータ提供で協力してもらいながらトヨタのAIエージェントを一緒につくっていくという試みでもある。一定期間アプリを使ってもらうことでどういうデータを取ればお客さまのことが分かるか検討する。趣味や気分のデータを集めて、試乗当日にその人の好みや趣味に合わせたインタラクションを体験してもらう。
データを集めるためにはアプリを使ってもらわなければ意味がないので、使いやすさを重視する。機能としては、ニュースの配信や、東京オリンピック・パラリンピックに連動したLQの情報提供、目的地へのナビゲーションなどを考えている。詳細は今後詰める。
MONOist それだけで人を理解する手掛かりになるのでしょうか。
井戸氏 その人個人に特有の性質を理解するのではなく、何パターンかの傾向のうちで1番当てはまる分類を推測するのであれば、このようなアプリでもできる。どこにいくか、どんなニュースを見るかという情報に加えて、「今日行ったこの場所はどうでしたか」という質問に回答してもらうことで精度を上げる。ユーザーによって傾向が分かりやすい人もいれば、分かりにくい人もいて、一定数は無関心の層が出てくるが、分かりやすい人であれば2週間もアプリを使ってもらえれば、その人の当てはまる分類が見えてくる。
MONOist AIエージェントにとって分かりやすい人とはどのような人ですか。
井戸氏 アプリでデータを取得できる行動という意味で、アクティブな人や、移り気ではない人だと思う。どこかに出かけたり、移動したりする人の方が特徴が分かりやすい。このようにして分析されることに抵抗がある人もいると思うので、まずは協力してもいいという人に、事前に取り組み内容を説明した上で実施していく形になる。
MONOist レクサスブランドのイメージ映像では、AIエージェントが自分の想像を超えて先読みするという未来が紹介されていました。想像を超えた先読みはどのように実現するでしょうか。
井戸氏 先読みの種類にもよる。実現する可能性が高いことと、そうではないことがある。例えばLQ試乗会を実施するという未来は確度が高いが、明日あなたが何を食べたいと思っているかをAIエージェントが当てることは難しい。予測する領域をどう選ぶかだ。
例えば、毎日ファストフードの各店にローテーションで行く人に対して、AIエージェントが「明日は○×のハンバーガーにしますか」と提案したり、出張で知らない場所にいるときにも「近くにファストフード店がありますよ」と言ったりしてくれるのも、先読みの1つだ。こうした先読みは近い将来にも実現できるだろう。こういったことの積み重ねで、先読みできることを増やしていく。
MONOist LQのプロジェクトはどうなれば成功ですか。
井戸氏 志としては、愛車が理解されることがゴールだ。壊れやすいクルマを大事にするような旧来の感覚ではなく、コミュニケーションの中にクルマがいることを思い浮かべてもらえるようになりたい。今までは所有するクルマが愛車だったが、シェアリングやMaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして 利用すること)でも、一瞬の思い出の時にそばにクルマがあってよかったという概念に拡張するきっかけになっていきたい。
1人に1つのAIエージェントが常に自分の近くにいて、シェアリングのクルマに乗ったらAIエージェントもクルマにインストールされるという風にしたい。日本人の感覚で言えば、AIエージェントが相棒になることを目指している。相棒に抵抗があれば、近くで見守る守護霊のようになるといい。一歩下がったところからいつも見守っていて、その人がいつもと違うクルマに乗ったらそのクルマでのサービスを提供し、その人の気分を見て、気分にあった音楽を流したりすることをイメージしている。
MONOist LQ試乗会はどれくらいの規模を予定していますか。
井戸氏 クルマを何台用意するかは現時点では公表できないが、多くはない台数のLQに、3カ月の期間で何人に乗ってもらえるか。より役立つデータを集めるという観点では多様な結果がほしいので、単純に何人に参加してもらえばいいともいえない。
開発責任者としてはLQ試乗会まででプロジェクトが一区切りとなる。LQは、技術開発だけでなく人材育成の面もある。技術の開発は継続するし、このプロジェクトで育ったアプリ開発やデータサイエンティストといった人材が別のより高度なプロジェクトで活躍するという形で続いていく。例えば、ドライバーの覚醒度推定に携わった人材は、LQのプロジェクトを離れて画像認識技術の開発リーダーをやっている。単純にモノをつくるだけではないプロジェクトだ。
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