三菱電機から「世界最高レベル」のトレンチ型SiC-MOSFET、信頼性と量産性も確保:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
三菱電機は、1500V以上の耐圧性能と、「世界最高レベル」(同社)の素子抵抗率となる1cm2当たり1.84mΩを両立するトレンチ型SiC-MOSFETを開発した。家電や産業用機器、自動車などに用いられるパワーエレクトロニクス機器の小型化や省エネ化に貢献する技術として、2021年度以降の実用化を目指す。
3つのブレークスルーポイント
今回発表したトレンチ型SiC-MOSFETの開発では「電界緩和構造の採用」「高濃度層の形成」「斜め注入の適用」という3つのブレークスルーポイントがあった。
トレンチ型SiC-MOSFETでは、トレンチの角部で強い電界が発生し、ゲート絶縁膜や素子の破壊につながるという問題があった。この強い電界の抑制やゲート絶縁膜破壊の防止に向けて、トレンチ底部に採用したのが電界緩和構造である。半導体製造プロセスのうち、不純物注入プロセスを用い、アルミニウムイオンの注入によって実現した。
しかし、電界緩和構造を採用すると、スイッチング動作時に電界緩和層に電荷が蓄積し、高速動作を阻害し、スイッチング損失も増加するという問題が起こる。この蓄積した電荷をソース電極に逃がし、スイッチング動作の速度を確保するため、トレンチ側面部に側面接地部を設けた。側面接地部の形成も、アルミニウムイオンの注入によって実現している。
高濃度層の形成は、トレンチ型の目的でもある、高密度にトランジスタを配置して抵抗低減効果を得るためのものだ。トレンチ型SiC-MSOFETでトランジスタの配置間隔をただ狭めるだけだと、電流経路が小さくなって電流が流れにくくなってしまう。これだと、素子抵抗率の低減効果は限定されてしまう。そこで、トレンチの側面接地部と逆側の部分に通電しやすい高濃度層を設けることで、電流が流れやすくなりさらなる低抵抗化が可能になる。実際に、高濃度層がある場合とない場合を比べて約25%の抵抗低減効果が得られたという。なお、高濃度層の形成は、窒素イオンの注入によって実現している。
これらの構造を持つトレンチ型SiC-MOSFETを量産するには、トレンチ底面や側面に設けた構造を安価に形成できる製造技術が必要だ。そこで採用したのが、不純物の斜め注入である。トレンチ底部の電界緩和構造については、真っすぐにアルミニウムイオンの注入を行うが、側面の側面接地部と高濃度層については斜め注入を用いる。「斜め注入はメモリなどの製造で用いられる一般的なプロセスだ。装置負荷も少なく、量産を想定した裕度のあるプロセスといえるだろう」(三菱電機 先端技術総合研究所 パワーデバイス技術部長の三浦成久氏)。
今回開発したトレンチ型SiC-MOSFETは、素子耐圧が1550Vを達成しており、家電や産業用機器、自動車など低〜中耐圧が求められる用途に向ける。また、現在のところ標準的なデバイスサイズは5mm角になるとしている。
なお、今回の開発成果は、京都市で開催中のSiCデバイスの学会「ICSCRM 2019」(2019年9月29〜10月4日)で発表された。
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