IoTで手術をスマート化、工場の技術を転用したデンソーの挑戦:MONOist IoT Forum 名古屋2019(後編)(3/3 ページ)
MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンの産業向け4メディアは2019年7月10日、名古屋市内でセミナー「MONOist IoT Forum 名古屋」を開催した。本稿後編では、IoTによる新たな価値創出を実現したデンソー 社会ソリューション事業推進部 メディカル事業室 室長による特別講演「OPeLiNK 〜IoTでおこす治療室イノベーション〜」の内容と、その他の講演内容をお伝えする。
スマート工場やデータ活用の具体的なソリューション
「MONOist IoT Forum in 名古屋」では、ここまで紹介してきた基調講演、特別講演、ランチセッションに加え、5本のセッション講演も実施した。その様子をダイジェストで紹介する。
製造業の各工程にインテリジェンスの提供を目指す日本マイクロソフト
日本マイクロソフトは「マイクロソフトが推進するインテリジェント・エッジ&クラウド、IoT/AI/Mixed Realityは適材適所で上手に使おう!」をテーマに、製造業の各工程におけるデジタル変革や、先進技術の活用について紹介した。
日本マイクロソフトでは「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」を掲げ、クラウドからエッジまでを組み合わせ、製造業の各工程に最適な形で先進デジタル技術の活用を推進していく。デジタル技術を支援する領域として「コネクテッドフィールドサービス」「コネクテッドリテール、サービス」「ファクトリーオブザフューチャー」「インテリジェントサプライチェーン」「コネクテッドプロダクツイノベーション」などを推進していく。
日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 製造営業統括本部 製造業ソリューション 担当部長の鈴木靖隆氏は「リアルの世界とデジタルの世界を緊密に連携させ、デジタルからのフィードバックをループさせるデジタルフィードバックループが重要になる」と語っている。
既にあるデータを使えるようにする価値を訴えるスプランク
Splunk Service Japanは「海外事例にみる製造現場のマシンデータ活用」をテーマとし、使われていないマシンデータをどのように活用するかを観点に、IoT時代のデータ活用について紹介した。
製造業においてデータ活用を進めようと考えた場合、工場などでさまざまな機械が稼働していることから、マシンデータを活用するケースが多い。しかしマシンデータの活用には以下の3つの点が課題となっている。
- システムや機器によって形式がバラバラで事前準備に時間がかかる
- リアルタイムで大量のデータが生成されるため、大規模環境が必要
- どのように調査、分析するかを事前把握できない場合がある
Splunk Service Japanはこれらを解決するソリューションを提供。Splunk Service Japan セールスエンジニアリング本部 部長の瀬島一海氏は「一言でいうとログデータの統合分析プラットフォームを提供している。既に海外では半導体メーカーや自動車メーカーなど多くの導入実績がある」と述べている。
「モノ」から「コト」へ、サブスクリプション化を訴えたジェムアルト
ジェムアルトは「ソリューションカンパニーにシフトさせるソフトウェアの収益化〜モノづくり企業が今すぐ導入できるIoTのサブスクリプションビジネス〜」をテーマに、製造業のサービスビジネス化について訴えた。
ジェムアルト ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 シニアプリセールスコンサルタント 前田利幸氏は「IoTにより製造業のビジネスモデルは大きく変わってきている。従来はソフトウェアが付属品だったが、現在はソフトウェアを主体にサービスを核としたビジネスモデルが中心になりつつある」と語る。
そしてサービスビジネス化を推進するには、売り切り型の従来製造業のビジネスモデルでは対応できず、サブスクリプションモデルや従量課金制、成果報酬型などに変革する必要がある。前田氏は「まずはビジネスをどう構築するか、最適なモデルはどういうものかを考えることが重要だ」と語っている。
予知保全の現実的な実現を訴えた東京エレクトロデバイス
東京エレクトロンデバイスは「IoT/AI活用は実証から実装へ、予知保全を実現する現場力とAI力の勘所」をテーマに、予知保全をどのように実現するかをテーマに講演を行った。
東京エレクトロンデバイス PB営業本部 デジタルファクトリー営業部 部長の神本敬氏は「予知保全は2019年、2020年が離陸期になる。自社内の工場における予知保全と、自社製品の予知保全という2つの方向性で関心が高まっている」と予知保全の方向性について語る。
具体的に成果を得る予知保全を実現するためには現場力とAI力が重要で、これらを組み合わせて早期に成果を出す意義を訴えた。神本氏は「全体像を把握してビジネス課題にひも付けて実現を目指していくことが重要になる。何を見るかというのは現場の視点を活用する。一方でデータをどう見るかという点などはAIなどを活用し、効果的に組み合わせることが必要になる」と語っている。
完璧なセキュリティ対策は不可能、脆弱性管理の価値を訴えたテナブル
テナブルネットワークセキュリティジャパンは「脆弱性管理の進化が止まらない〜業界初、悪用される脆弱性の予測機能〜」をテーマとし、IoT活用で必須となるセキュリティ面での取り組みについて紹介した。
テナブルネットワークセキュリティジャパン Security Engineerの阿部淳平氏は「あらゆるデバイスがIoT化していく中で、サイバー攻撃の脅威は高まっている。ただ、サイバー攻撃はゼロデイ攻撃など、先進的な攻撃もある一方で、公開された脆弱性を数カ月後に攻撃するようなケースがほとんどである」と脆弱性を管理する意義について強調する。
ただ「企業が抱える脆弱性の数も膨大になっており、完全な脆弱性対策を行うのが現実的ではない状況になっている」(阿部氏)とする。その中でテナブルネットワークセキュリティジャパンでは、“攻撃されそうな”脆弱性から対応を進めていく意味を訴え、同社のソリューションを紹介した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「スマート治療室」がIoTを本格活用、ORiNベースの「OPeLiNK」で医療情報を統合
日本医療研究開発機構、東京女子医科大学、信州大学、デンソー、日立製作所が、IoTを活用して手術の精度と安全性を向上する「スマート治療室」について説明。信州大学病院に導入された「スタンダードモデル」は、デンソーの「OPeLiNK」を組み込むことで、医療機器のさまざまな情報を統合運用可能で本格的なIoT活用になる。 - いまさら聞けない ORiN入門
スマートファクトリーやインダストリー4.0など「つながる工場」を実現するカギとも見られる、工場情報システム用ミドルウェア「ORiN(オライン)」をご存じだろうか。なぜ今ORiNが注目を集めているのか。誕生の背景や活用シーン、技術の概要などを紹介する。 - イノベーションを生み出す「デザイン思考」とは
現在、日本の製造業で求めらているイノベーションを生み出す上で重要な役割を果たすといわれているのが「デザイン思考」だ。本稿では、デザイン思考が求められている理由、デザイン思考の歴史、デザイン思考と従来型の思考との違いについて解説する。 - 製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか
製造業のデジタル変革への動きは2018年も大きく進展した。しかし、それらは主に工場領域での動きが中心だった。ただ、工場だけで考えていては、デジタル化の価値は限定的なものにとどまる。2019年は製造業のデジタルサービス展開がいよいよ本格化する。 - 製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない
製造業が生産する製品を販売するのでなく、サービスとして提供する――。そんな新たなビジネスモデルが注目を集めている。サービタイゼーション(Servitization、サービス化)と呼ばれるこの動きが広がる中、製造業は本当にサービス業に近くなっていくのか。インタビューを通じて“製造業のサービス化”の利点や問題点を洗い出す。本稿では、サービタイゼーションを研究するペンシルバニア大学 教授モリス・コーヘン氏のインタビューをお伝えする。 - 製造業のサービス化、予兆保全は単なる「はじめの一歩」
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。しかし、そこで語られることは抽象的で、いまいちピンと来ません。本連載では、そうした疑問を解消するため、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて分かりやすくお伝えするつもりです。第7回は、前回に引き続き「製造業のサービス化」についてご紹介します。