解析結果とメッシュの関係:初心者のための流体解析入門(6)(2/2 ページ)
流体解析をテーマに、入門者や初学者でも分かりやすくをモットーに、その基礎を詳しく解説する連載。今回は流体解析の結果に大きな影響を与える要素として、“メッシュの細かさ”と“境界層”について取り上げる。
流体解析で忘れてはならない「境界層」の存在
さて、流体解析の場合に、もう一つ考えなくてはならないことがあります。それが「境界層」の存在です。
境界層とは、流れに接している壁の近傍で、速度や温度などの物理量が大きく変化する領域のことです。例えば、管の中で流体が流れている場合、毎秒10mなどの流速があっても、管の中で全て同じ流速というわけではありません。管の壁面付近では、流体が持つ粘性によって流体は減速され、壁面の速度はゼロになります。この境界付近で流れが減速される領域は非常に薄いのですが、流れの速度は極端に変化します。
これは構造解析にはない、流体解析特有なものですが、このために壁面に沿って層状の境界層要素(レイヤーメッシュ)を作成するのが一般的です。この境界要素を設けるか、設けないかによって、解析結果は大きく変わってきます。また、単に設けるだけはなくて、速度境界層の勾配をきちんと表現できるだけの適切な層数を設定する必要もあります。
境界要素のある/なしは、具体的に次のようになります。まず、こちらは境界要素がないメッシュになります(図3)。壁からの距離が均一ではないため、流速勾配などの計算精度はあまりよくありません。解析条件によっては、特に悪い結果がいつも出るというわけではありませんが、基本的にはよくないタイプのメッシュになります。
こちらは、境界要素があるメッシュになります(図4)。壁面に沿った層状のメッシュが作成されていることが分かると思います。こちらの方が流速勾配などの精度や収束性に優れています。
構造解析でも昨今、手切りでメッシュを作成することは、特に設計者CAEをお使いの場合、「まずない」と思います。そもそも、自動メッシュ以外にオプションがないこともあると思います。しかし、そういう場合でも、ローカルメッシュコントロールなどで、メッシュの粒度についてはある程度制御できます。
流体解析も、メッシュの作成は自動に任せると思いますが、全体の細かさや境界層要素の扱いについては設定できます。決してソフト任せにせずに、よく考えて設定することが重要です。特に、最初に述べたように、メッシュを細かくすれば基本的に精度は高くなりますが、計算時間とのトレードオフになります。
また、構造解析ではやっていても、流体解析に慣れていない場合は、メッシュ作成だけでも要領を得ないこともあります。筆者もほんの少し細かく設定したつもりが、実は細く設定し過ぎており、ソフトだけでなくPCがハングアップしてしまったことがあります。いずれにせよ、メッシュは解析結果に大きな影響を与えます。ぜひ、よく考えてメッシュを作成してください。
ここまで、できる限り“大学の講義”にならないように意識して解説してきました。ソフトの使い方に大きく関わる内容は、今回でほぼ終わりなので、次回以降は少しずつ理論を絡めてお話をしていく予定です(次回の執筆までに気が変わるかもしれませんが)。
今後、少しずつ数式も含めた理論の説明が増えていくと思います。ただ、できる限り、その確認のためにCFDのソフトを使って〜、という流れにしたいと考えています。また、実際の設計にできるだけ関係するようにもしたいと思っておりますので、引き続きご愛読いただけますと幸いです。(次回に続く)
Profile
水野 操(みずの みさお)
1967年生まれ。mfabrica合同会社 社長。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。3D-GAN理事。外資系大手PLMベンダーやコンサルティングファームにて3次元CADやCAE、エンタープライズPDMの導入に携わった他、プロダクトマーケティングやビジネスデベロップメントに従事。2004年11月にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、オリジナルブランドの製品を展開。2016年に新たにmfabrica合同会社を設立し、3D CADやCAE、3Dプリンタ関連事業、製品開発、新規事業支援のサービスを積極的に推進している。著書に著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)などがある。
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