モビリティ革命の推進力、日本の交通に変化をもたらす4つの先進的取り組み:交通政策白書を読み解く(後編)(6/6 ページ)
国土交通省は2019年6月に「平成30年度交通の動向」及び「令和元年度交通施策」(以下、交通政策白書2019)を公開した。今回は「モビリティ革命〜移動が変わる、変革元年〜」をテーマに、交通の動向や交通に関する施策を紹介している。
次世代に向けた新しい取り組み
交通と不可分な道路や都市などのインフラやまちづくりにおいても、次世代型交通ターミナル整備、スマートシティーや「AIターミナル」の実現といった、自動運転など最先端のモビリティを考慮した次世代に向けた取り組みが進展している(図11、12)。
さらにモビリティ分野の新たな動きとして、電動垂直離着陸型無操縦者航空機など世界各国で開発が進んでいる「空飛ぶクルマ」については、日本においても都市部での送迎サービス、離島や山間部の新たな移動手段などにつながるものと期待している(図13)。
2018年6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」で掲げた「世界に先駆けた“空飛ぶクルマ”の実現」に向け、国土交通省は経済産業省とともに「空の移動革命に向けた官民協議会」を設立し、日本として取り組んでいくべき技術開発や制度整備などについて、官民共同で“空飛ぶクルマ”の実現に向けたロードマップを策定すべく議論を行い、12月にはロードマップが取りまとめられた(図14)。
このロードマップは、官民それぞれの分野の取り組み方針などが初めて共通認識として形になったものであり、国土交通省では、ロードマップを出発点に“空飛ぶクルマ”の実現に向け、安全確保を旨としつつ官民で連携を図りながら必要な制度や体制の整備に取り組んでいくとしている。
今後の展望
交通政策白書2019では総括として「ITや技術革新のさらなる進展に伴い、モビリティ革命ともいえる交通分野の変化は、今後ますます活発化することが想定される」とする一方、「こうした変革が、大都市部を中心とする民間企業の収益向上といった目的のみにとどまらず、地域の移動手段の確保による地方創生、都市部の交通混雑緩和や運行の効率化、より高い安全性の確保、低炭素化などの環境対策、訪日外国人の受入環境整備、災害時対応など、交通や都市、地域を巡る政策の諸課題の解決に資するものとなることが求められる」と指摘する。
そのためには、国、地方公共団体などの行政機関、交通事業者をはじめとする民間企業、大学や研究機関、さらには地域住民やNPOなど、多様なステークホルダーが連携することが重要であり、特に、多種多様なデータの共有と活用を可能とするため官民双方が所有するデータへのアクセシビリティーの向上、データの標準化、オープン化の取り組みが重要となってくるだろう。
加えて、モビリティ分野の課題は世界共通であり、国際的な安全基準の策定、質の高いデータをやりとりするためのサイバーセキュリティの保障など、国際的な相互協力の取り組みが求められることから、国際協調の視点も重要となる。多様なステークホルダーの相互連携の下、安全で安心できる質の高いモビリティサービスの提供が実現するよう、「モビリティ革命」がさらに進展することが期待される。
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