25周年のQRコード、今後は「カラー化」とセキュリティ向上でさらなる進化:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
QRコードとその読み取り技術の開発者であるデンソーウェーブ AUTO-ID事業部 技術2部 主席技師の原昌宏氏が、開発秘話や今後の展望について語った。
QRコードをどう読み取るかが肝に
そもそもQRコードとバーコードはどのような差があるのか。情報量を増やすカギは見た目にも分かる形状の違いだ。QRコードは格子状の黒白模様で情報を表現するため、コードの縦と横でデータを持つ。これに対し、バーコードで情報を持つのはバーの幅だけだ。QRコードの情報量はバーコードのおよそ200倍で、数字にして7089桁に相当する。平仮名や片仮名、漢字、アルファベットも表現できる。中国語や韓国語などの言語にも対応している。
また、QRコードの情報記録密度はバーコードの40倍だ。バーコードと同じ情報量であれば40分の1のサイズで表現できる。これを応用し、付加する情報量を制限することで1mm四方で印字できるマイクロQRコードも電子部品向けに開発した。QRコードならではの情報量の大きさは復元機能にも充てている。バーコードは一部でも欠けると読み取れないが、QRコードは面積の30%が欠損しても読み取ることができる。汚れやすい工場内での読み取りを踏まえて開発を進めた。
原氏は、一元的なバーコードから2次元化することによって「情報量を増やすことは比較的簡単に実現できた」と話す。それよりも、コードの構造が複雑になっても速く正確に読み取れるかが課題となり、デンソーでもそこに焦点を当てて開発したという。
バーコードは読み取る向きが決まっているが、QRコードは方向に関係なく読み取ることができる。「3つの角にマークを配置しているのがポイントだ。100桁のデータを1秒間に30回読み取れる。バーコードの5倍の速さだ」(原氏)。読み取り速度と、復元機能によって欠損しても認識する点、曲面などでも読み取れるなどゆがみにも強い点が普及につながったという。
誤読率はQRコードが10-16(1京分の1)以下、バーコードが10-6(100万分の1)以下となっている。開発当時は読み取りに100万画素程度までのカメラを使うことを想定して数字7000桁という性能だったが、現在はスマートフォンに1000万画素を超えるカメラが搭載されることも珍しくない。カメラが高性能になるということは、QRコードの読み取り性能も向上できる。原氏は「まだQRコードの情報量を増やす余地はある」と述べた。
カラー化で飛躍的に情報量アップ
QRコードは現在5種類ある。このうち、イベントなどのチケットや本人確認、物理的な鍵の代替などでデンソーウェーブが提案を強化しているのは、読み取り制限機能を持った「SQRC」だ。
見た目には判別できないが、SQRCには公開部分と非公開部分に分けて情報が記録されている。スマートフォンのカメラなど誰でも利用できる方法で読み取っても公開部分の情報しか得られない。非公開部分の情報はSQRC対応で、暗号キーを設定した特定のコードリーダーでなければ読み取ることができない。一般的なQRコードを生成できるWebサイトは多数あるが、SQRCはデンソーウェーブが提供するコード生成エンジンでなければ発行できない。
SQRCの非公開部分には、顔写真から抽出した特徴点も記録できる。これを用いた顔認証システムが、鹿児島銀行の実証実験や、オフィスの入退室管理などに採用されている。ATMやオフィスの出入り口に設置したカメラで本人を撮影し、SQRCに保存されている顔写真の特徴点の情報と照合して一致すれば本人として認める仕組みだ。
このシステムの利点は、インターネットに接続しなくても顔認証が可能になる点だという。認証完了までの処理時間が短くなる他、個人情報がクラウドなどに保存されないことで安心感も得られるとしている。また、期限付きでSQRCを発行し、複数人が出入りする部屋の鍵として使うこともできるという。
原氏は、本人の情報をオフラインで扱える点が「災害時などにも強みを発揮するのではないか」と語る。災害発生時は、通院歴や治療、投薬の履歴、過去の診断などの情報が入手しにくくなり、持病を持つ人が適切な治療を受けるのが難しくなる。「こうした情報をSQRCで保存できないかと考えている。レントゲン写真や心電図などのデータを記録できればと思うが、QRコードでは情報量が足りない。用途を広げるためにもQRコードに記録できる情報量を増やしていきたい」(原氏)。
情報量拡大のカギはQRコードのカラー化にある。カラーQRコードのコンセプト自体は以前からあったが、「これまでは大容量化のニーズがなかった」(原氏)。過去の大規模な災害時に病院のシステムが停止して困りごとが発生したことから、QRコードに記録する情報の大容量化のニーズが高まっていると見ている。QRコードに色がつくことで、「情報量は飛躍的に高まる。4階調程度で十分だ。カラープリンタや、液晶も普及しているので、カラーQRコードを展開する環境としては問題ない」(同氏)という。
なりすましへの対応も課題に
QRコードの悪用への対策も今後の開発テーマとなる。QRコードは目視では誰が発行したかは分からないし、誰にでも発行できる。そのため、上に別のQRコードを貼り付けるだけで本来とは違うWebサイトなどに誘導できてしまう。原氏は「QRコードの出所を認証する機能を開発していきたい。今までQRコードは普及のためにオープンにしてきたが、決済などおカネが絡むところはまだ無防備だ。認証などセキュリティ面は独自の新規開発にはこだわらない。協力できる部分では協力しながら、すでに実績や信頼性のある技術を取り入れていきたい」と語る。
情報を非公開で記録できるSQRCだが、どのように非公開情報が保存されているか現時点では第三者から特定されていない。「解析される前に対策は必要だ。SQRCも開発から10年たったので、悪意ある人とのいたちごっこに備えて次に向けた開発を進めていく必要がある」(原氏)。
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