25周年のQRコード、今後は「カラー化」とセキュリティ向上でさらなる進化:組み込み開発ニュース(1/2 ページ)
QRコードとその読み取り技術の開発者であるデンソーウェーブ AUTO-ID事業部 技術2部 主席技師の原昌宏氏が、開発秘話や今後の展望について語った。
デンソーウェーブは2019年8月8日、東京都内において、QRコード誕生25周年の記念イベントを開催した。
QRコードは無料で誰でも発行でき、手元の携帯電話機のカメラでも読み取ることができる身近な存在だ。用途は幅広い。長いURLを手動で打ち込むことなく目当てのWebサイトにアクセスできるようになっているのはもちろんのこと、キャッシュレス化に向けて昨今乱立しているQRコード決済、イベントのチケットや公共交通機関の切符、学生証や教科書、鉄道のホームドア制御などで使われる。
QRコードの種類も増えている。特定のコードリーダーでなければ読み取れない情報を付加できる特徴を生かして、オフラインで完結する顔認証システムも展開中だ。鹿児島銀行では、顔認証とQRコードを組み合わせて、キャッシュカードなしでATMを利用できるようにする実証実験を始めた。
QRコードとその読み取り技術の開発者であるデンソーウェーブ AUTO-ID事業部 技術2部 主席技師の原昌宏氏が、開発秘話や今後の展望について語った。
かんばん方式導入で経理がパニック
原氏は1980年にデンソーに入社。「かんばん方式」で使用するバーコードの読み取り装置やOCR(光学文字認識)を開発する部署に所属していた。
1980年代はデンソーのバーコード関連の取り組みが事業化した時期だった。バーコードかんばんシステムの技術をベースに、読み取り装置を製造現場以外でも使えるように小型化してバーコードスキャナーを開発、POS(販売時点情報管理)向けに展開した。1987年には、バーコードスキャナーとコンピュータ、バッテリーなどを一体化したバーコードハンディターミナルを「世界で初めて実用化した」(デンソーウェーブ)。
QRコードのルーツは、1976年にデンソーがかんばん方式の看板にバーコードを付けるようになったことにさかのぼる。かんばん方式が1971年にトヨタグループで展開されてから、生産効率が上がった半面、経理部門では業務負荷が大きく増えた。部品メーカーからトヨタ自動車に部品を納入する頻度は週1回程度から毎日に増え、伝票の量は10倍になった。増えた伝票をコンピュータに手入力するため、作業量の増加によってミスも増え、経理部門はパニック状態だったという。そこでデンソーはかんばんにバーコードを付与した。バーコードを各工程で読み取ることにより、モノと情報のリアルタイムな一元管理が可能な生産情報システムが実現した。
その後、バーコードは製造現場で力不足になっていく。1990年代に向けて自動車業界は多品種少量生産へシフトし、よりきめ細かな生産管理が求められた。扱う情報量も増え、「バーコードを1つの工程で10個読み取るようになった」(原氏)。バーコードの読み取り作業自体が作業者の負担となっており、解決を求める声が上がっていた。また、企業間電子取引の構想で大容量の情報を扱えるコードを業界標準として開発する要求も出始めていた他、ICチップや基板に印字可能なコードに対するニーズも高まっていた。
こうした状況の中でQRコードは製造業向けに1994年に誕生。開発期間はおよそ2年間だったという。「当時は現場の意見を取り入れながら読み取りやすさを検討すること、読み取りソフトを自前で開発することに苦労した。また、当時開発に使えるのは熱に弱いコンピュータばかりで、思い通りに開発が進められなかったのも覚えている」(原氏)。
その後、2000年のJIS、ISOでの規格化を経て、流通や公共サービスなどに市場が拡大。さらに、携帯電話機のカメラにQRコード読み取り機能が付いたのを機に一般向けにも広く普及した。原氏はQRコードが普及できた要因について「読み取り性能の追求と時代のニーズに合わせた進化に注力してきた。また、デンソーだけではインフラにすることはできなかったので、特許や仕様のオープン化と業界標準を取ることで参入する企業が増えたことも普及した理由だ。デンソーが得意ではない用途開発を担ってくれた企業がいたことも大きい」と語った。
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