パナソニックが狙う“暮らし”と“現場”、2つのプラットフォーマーへの道:製造業×IoT キーマンインタビュー(4/4 ページ)
「Society4.0にうまく適合できなかった」と危機感を示すパナソニック。ソフトウェア開発体制の強化など、Society5.0時代に向けてさまざまな変革を進める。パナソニックが新たに変革すべきところ、強みとして残すべきところはどういうところになるのだろうか。パナソニックのイノベーション推進部門を統括する専務執行役員である宮部義幸氏に話を聞いた。
ハードとソフトの開発サイクルを一致させる
MONOist/EETJ “暮らしアップデート”を実現するためにソフトウェア開発体制の強化を発表しました。
宮部氏 「製品がIoT化する」といえば、デバイスからクラウドにインターネットを介してつなぐという発想になるが、単純に「機器の情報を収集する」であったり「遠隔制御をする」だったりということは第1段階である。もう少し進めば「機能をクラウドに持たせる」や「機能を入れ替える」というようなことも可能となる。こうしたことは既にスマートフォン端末やPCでは当たり前に行えることであり、これらを他の領域でも行えるようにしたい。
ソフトウェア開発体制の強化として発表した(※)のも、以前からある組み込みソフトウェア開発の強化ではなく、IoTを前提としたITベースのソフトウェアを強化する考えだ。製品が常にアップデートされて新たな機能などが楽しめる世界を作るには、これらの技術が必須となる。
(※)関連記事:パナソニックがソフト開発体制強化へ「製品を常にアップデート可能にする」
ソフトウェア開発の方向性としては「アップデータブル(アップデートできる)」と「システム統合」の2軸で考えている。統合を進めるとともにアップデート可能なものへと変えていく。
現状はバラバラの仕組みを統合するところから取り組みを進めているところだ。家電事業におけるスマートフォンアプリなどを見ても現在は各事業部がバラバラのものを出している。これらを統合し1つの基盤としていく考えだ。機器の中のソフトウェアも同じような考えで統合できれば、機器間の親和性なども生み出すことができ、総合的な価値を作り出すことができるようになる。
2019年度下期に向けて、共通ソフトウェア基盤を作り出すような統合組織を作る。ソフトウェアのコア部分は共通のものとし、これらを各事業部に展開できるような仕組みとする。新組織が本格的に稼働するのは2020年度になる見込みだ。既にクラウドについては、データとAPI(Application Programming Interface)についての一元化を進めており、トップランナー的な製品がつながってくるのは2021年頃になる見込みだ。ただ、定着するのはもう少し先になるだろう。組み込みソフトウェア関係を統合するのは現在の資産もあり、簡単ではない。慎重に取り組んでいきたい。
MONOist/EETJ デバイスや基盤となるハードウェア、通信などの技術開発についてはどう考えますか。
宮部氏 デバイスで開発に力を入れるのは、センサー関係だ。デジタル化していく中でリアルの現象をデータ化するにはセンサーが大きな役割を果たすためだ。
また、開発の方向性としては、ソフトウェアとハードウェアの開発サイクルをすり合わせていくことに取り組む。例えば、IoT製品などで機能開発を想定した時、ソフトウェアをどの程度進化させどこまで担わせるのか、デバイスはどの程度性能を持たせるのかという点が重要になる。現状では、ソフトとハードの役割などが交通整理できていないという点に課題を感じている。これらが整理できればアップデートできるものとそうでないものの判断なども簡単に行えるようになり、適切な周期で開発サイクルを回していくことなどが可能となる。
通信技術では5Gについて注目している。パナソニックでは、携帯電話関係の技術は基地局や端末それぞれからほぼ撤退した状況だが、基盤となる通信関連の技術は社内に残しており、開発も進めている。5Gについても当然開発は進めているが、現状ではどういう方向性で新たな価値が生まれるのかを見極めているところだ。4Gの延長線上であれば大きな革新にはつながらないと考えている。
“暮らし”と“現場”のプラットフォーマーに
MONOist/EETJ 共通基盤という話がありましたが、幅広い事業を持つパナソニックにおいて、どういう単位でまとめていく考えでしょうか。
宮部氏 まず“暮らし”に関係するプラットフォームが1つ考えられる。またパナソニックコネクティッドソリューションズ(CNS)社が進めている“現場プロセスイノベーション”についてのプラットフォームも1つあるだろう。既に「μSockets」なども展開している(※)。まずはこの2つのプラットフォームでそれぞれの環境で価値を提供できるような仕組みを作り出していきたい。その後、これらの複数のプラットフォームが相互に連携しながら価値を生み出すようにしていく。
(※)関連記事:パナソニックが描く第2の“二股ソケット”、つながる価値は次の100年を照らすか
クルマに関係するプラットフォームなどもあり得るが、パナソニックはクルマを作っているわけではないので難しいかもしれない。単独で取り組むのではなく自動車メーカーとの協業で進める形でプラットフォームを構築するようなことも考えられる。
基本的な考えとして、得意な領域は自社のプラットフォームを準備し、それ以外の領域については他社と組んでプラットフォーム同士を結ぶようにしていく。複数のプラットフォームを結びながら、それぞれのデータを生かし、総合的に新たな価値を創出することができればよいと考えている。
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